販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
『ビッグイシュー英国版』販売者 サイモン・グラヴェル
今はただ、お客さんが恋しい。 都市封鎖の長期化で「野宿に舞い戻るかも」
「販売者に会いにゆく」 (※今号より、「今月の人」改め、「販売者に会いにゆく」となりました)
ロックダウン(都市封鎖)の影響により、創刊29年目にして初めて路上販売を一時休止せざるを得なくなった『ビッグイシュー英国版』は、4月初旬から小売店での販売を始めた。国内大手のスーパーマーケットチェーン数百店舗や約1400のニューススタンド、2000以上の生協で販売され、売上の半分以上が販売者に分配される。こうした中、販売者のサイモン・グラヴェルは、二つの「職場」で新型コロナウイルスの影響を被っているという。
トレードマークである道化師の帽子とその笑顔で知られているグラヴェルは、ロンドン北東部に位置する都市ノリッジにある洋服屋「トップショップ」の前でビッグイシューを販売している。一方、彼はアンティークに造詣が深く、市の「オール・セインツ・アンティークセンター」で古物商もしている。
ビッグイシューの販売により、十数年ぶりに野宿状態を脱したグラヴェルは、古物商で安定した収入を得て、いつかは雑誌販売の仕事を卒業しようとしていた。彼のアンティークへの情熱は2年前の秋、BBCの番組「アンティーク・ロード・トリップ」でも取り上げられた。この番組は、プロの鑑定人が英国中のアンティークショップを車で巡り、買いつけた品々をオークションにかけて利益を競うというもの。当日は鑑定士のフィリップ・セレルが訪れ、グラヴェルと会話を交わした。昨年にはビッグイシューの誌面でも、彼の古物商としての才能が紹介された。
だが新型コロナウイルスの影響を受けて、現在街頭では雑誌を販売することができず、手持ちのお金もアンティークに使っていたため、都市封鎖が長期化した場合のことを考えると将来が恐ろしくなるとグラヴェルは語る。
「私が商いをしていたアンティークセンターは月曜日から休業中です。収入にも影響を与えていますが、開店したとしても、この時期に誰も訪れはしないでしょう。もしこの状態が3ヵ月などと長期化すれば、また野宿状態に舞い戻るかもしれません」
グラヴェルはビッグイシューの販売チームと頻繁に連絡を取り、都市封鎖を乗り越えようとしている。「数週間分の食料、少しばかりの現金もありますので、しばらくは乗り切れると思うのですが」と話す。
「この非常事態において、ビッグイシューはよくしてくれています。食料などが足りているかどうか何度も電話をしてくれました。でも私は必要ないと言いました。私よりももっと切迫している販売者がいるはずですから」
「今はただ、お客さんが恋しいです。昨日は月曜日でしたよね、月曜日はよく雑誌が売れる日でした。時計の針が進むのを見るたびに『ああ、いつもなら販売ができて、収入を得ることができたのに』と思ってしまうのです」
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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