販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
イタリア・南チロル『zebra.』販売者 ローレンス・オディオン
フランスに住んでいる娘に会いに行きたい。
昨年できなかったことを実現できる1年に
第一次世界大戦後にオーストリアから分離し、イタリア領となった南チロル。ドイツ系住民が多いため、この地のストリート・マガジン『zebra.』も主にドイツ語で書かれた雑誌だ。6年前に創刊し、販売者はアフリカなどからの移民が多くを占める。コロナ禍による都市封鎖の時は路上販売の中止を余儀なくされ、販売できない雑誌が山積みになったという。
販売者の一人、ローレンス・オディオン(26歳)は2020年を振り返ってこう語る。「本当に動揺しましたね。金銭的にも精神的にも悩みは尽きませんでした。1回目の都市封鎖の時(3月9日~5月11日)は家にいなければならないことが本当に苦痛で、頭の中ではさまざまな思いが駆けめぐり、神経を消耗しました」
『zebra.』スタッフのパトリシア・インザムは言う。「経済的なダメージとともに、社会的な打撃も大きいものでした。仕事を見つけて卒業した元販売者がパンデミックのせいでまた失職し、『雑誌を販売させてほしい』とたくさん戻ってきました。この状況では職を見つけるのはほとんど不可能ですね。夏には記録に残るほど多くの人が、雑誌を販売させてほしいと押し寄せました」
ちょうどこの頃、オディオンも南チロルのメラーノ市で販売者に登録した。「仕事探しがこれまで以上に難航するのは目に見えていました。それでも家賃やガス、水道代などを払う必要があり、食べるものも手に入れなければなりませんでした」
「都市封鎖が解かれた後、6月には常時マスク着用などのルールはあったものの『zebra.』の一員として雑誌販売ができたのはうれしかったです。その後、再び都市封鎖になってからも、さまざまな面でサポートしてもらい、心がなぐさめられました」。オディオンには身を置く小さな場所があるけれど、それでもこの混迷の時代をどう乗り切るのか思案している。
インザムはこう話す。「販売者の多くは幸い寝泊まりできる場所があるのですが、小さな部屋に大人数で暮らしていたり、キャンプ生活だったりします。この状況が長期化すればするほど、苦痛になってきているようです。それでも雑誌販売によって培われた人のつながりと、決してあきらめない心持ちによってなんとか持ちこたえています」
オディオンは、2021年が普通の日常をもたらしてくれることを願っている。「コロナ禍が終わりを告げて、多くの人たちがまた人生を楽しめるようになってほしい。個人的には、今年はフランスに住んでいる娘にどうしても会いたい。みなさんも、友人たちに会って、再びビジネスを起こして、職を得て、ビーチにも行ける……。昨年できなかったことを今年こそ実現できる日が来るよう、心から願っています」
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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