お客さんは、愛情いっぱいに接してくれる。
まるで祖父母の家に帰ってきたみたいだよ

「最初にお酒を飲んだのは、７歳の時だね」とトーマス・オーヴィエブラット（66歳）は語る。「妹は４歳だった。大みそか、父が僕たちのグラスに注いだんだよ。とてもおいしそうに見えたんだよね」
　まず自分のグラスを、次いで妹のを飲み干した。その後も、クリスマス、新年、イースター、夏休みと行事のたびにこの習慣は続いた。
「父はアルコール依存症でね。10歳の時に、母は家を出て行った。まだ子どもで事態を理解できず、『父はとっても優しいのに、母はとても意地悪だ』と感じていたから、僕は父と家に残ることにした」
　庭つきの家でも家賃は安かったはずだが、父が収入のすべてを酒に注ぎ込むため、家賃を支払う余裕もなかった。
「当時一番安全と思えたのは、僕らの家から２kmほど離れたところに住んでいた祖父母の家だね。そこで食事をし、多くの愛情を得た。イチゴが植わっていてね。いくつかつまみ食いをすると僕の口の周りが真っ赤になるんだよ。それが『おもしろい』っておじいちゃんは笑ってたな」
「学校の成績はよかったよ。数学が好きでね。でも、９年生になると生活を支えるために働きに出るようになった。金属材料のメーカーのいわゆる使い走りをして、自活するようになったよ」
　20代になるとヨーテボリに引っ越し、18年間ほどスーパーマーケットで台所用品を販売するようになった。「しらふでいられた最長は７年間だね。その時に結婚もしたんだけど、アルコール依存症は再発を繰り返す。妻は僕の元を去って、それを忘れるためにまた酒に手を出すようになったんだ」
　８年間、ホームレス状態も経験した。「（スウェーデンの依存症サポートセンター）の『リンク』には本当にお世話になった。命の恩人と言っても過言ではないね。２、３年前に『ファクトゥム』を販売している人がサポートセンターを訪れたことから、彼と一緒に事務所へ付いて行って、僕も販売登録することにしたんだ。お客さんたちはとても親切で、愛情いっぱいに接してくれる。まるで祖父母の家に帰ってきたみたいだよ」
「両親はもう亡くなったし、妹とも連絡が途絶えた」と語るトーマスには１９８０年に生まれた息子がいる。
「妻は僕のことをとても気にかけてくれたけれど、若かった僕にはそれが理解できなかった。息子も、人生最初の６年間で僕の依存症を目の当たりにすることになった。後悔することばかりだけれど、時すでに遅しだね」
「でも、希望のかけらもあるって信じてるんだ。しらふでいられる時間が長くなればなるほど、自分が強くなっている気がするからね」

『Faktum』
１冊の値段／100スウェーデン・クローナ（そのうち半分が販売者の収入に）
発行頻度／月刊
販売場所／ヨーテボリなど、イェータランド県の数都市

Text： Faktum／INSP／編集部

Photo: Malin Clausson

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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