販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

『リアル・チェンジ』販売者 ヴァレリー・ウィリアムズ

有償インターンとして、仲間たちにアドバイス。 リアル・チェンジは販売者を育てる村のようなもの

『リアル・チェンジ』販売者 ヴァレリー・ウィリアムズ

ヴァレリー・ウィリアムズは、まさか自分がホームレスになろうとは夢にも思っていなかった。カリフォルニア州サンフランシスコで育った彼女は、そこでいくつかの仕事をしながら地域コミュニティの一員として暮らし、ガールスカウトの団長を務めたこともある。彼女の母親、妹と弟、それに彼女の成人した3人の子どものうちの2人は、今もカリフォルニアに住んでいる。
そんな彼女は18年前、仕事を求めて米国を北上し、北の街へとやって来た。太平洋岸北部随一の大都市シアトルは、マイクロソフトやニンテンドーが本社を置くなどIT産業が盛んで、経済も好調に見えた。「当時つき合っていた男性に、『シアトルへ行こう、向こうでは仕事があるらしい』と言われたんです。けれど、この街にたどり着いた時には、2人ともホームレスになっていました」
結局、ヴァレリーが仕事を見つけられたのは、ホームレスや失業中の人々のために就労支援を行うシアトルのチャリティ団体「ミリオネア・クラブ」を通じてだった。いくつか短期の仕事をして糊口をしのぐなかで、ストリート紙『リアル・チェンジ』のことを知ったのは、YWCAが運営する女性向けシェルター「アンジェリン」に滞在している時だったそうだ。
「販売を始めた頃は、お客さんと知り合いになるのに1ヵ月くらいかかりました。みんな私のことを、『一体ここで何をしているんだ』というふうにじろりと見ていきます。そのうちに立ち止まる人も出始めたので、私はこう言いました。『リアル・チェンジという新聞を販売しています。社会的・経済的にハンディを持っている人たちのための新聞です』と」。彼女は新号を仕入れると、必ずその内容をチェックする。「人々に賃借人やホームレスの権利について話すためには、背景をよく知っていなければならない」からだ。
お客さんとは日々の生活の話もする。いつも陽気で過ごす秘訣は、60年代のソウルミュージック。「テンプテーションズ、アル・グリーンにレイ・チャールズ。聴いているとリラックスできるんです」。客も彼女の朗らかさに反応してくれる。「今日の装いは素敵だね」「何か要る物はないかい?」という具合に。
新聞をよく読んでいることと、お客さんとの丁寧なやり取りが、思わぬ幸運をもたらした。リアル・チェンジの有償インターンに選ばれたのだ。これは、販売者向けプログラムの一つとして実施されているもので、3ヵ月のインターン期間、ヴァレリーはリアル・チェンジから給与を受け取り、事務所でさまざまな仕事をこなしている。写真を撮ったり、バッジのラミネート加工をしたり、新聞を積み上げたり。中でもお気に入りの仕事は、オリエンテーションやセールス会議に出席して、仲間の販売者たちにアドバイスをすることだ。
「新入りの人を励まして、慣れるには忍耐力と時間が必要だとアドバイスします。目標は自分で立てればいい、自分がやりたいと望んでやることが成功につながるはずだ、とも。『村中みんなで子どもを育てる』というアフリカのことわざがありますが、私たちは販売者を育てる村のようなもの。彼らが販売で何か悩みを抱えていれば、リアル・チェンジが助けてくれます」
ヴァレリーは今、リアル・チェンジの紹介で、シアトル南部のコロンビア・シティ地区に部屋を借りている。「私はシアトルが大好き。今は生活が安定して、住むところもあるし、食べ物を手に入れられる場所もわかっているから、ますます好きになりました」

(Mike Wald/Real Change, www.INSP.ngo)

Photo: Real Change 『リアル・チェンジ』

●1冊の値段/2ドル(約220円)で、そのうち1ドル40セントが販売者の収入に。
●発行回数/週刊
●発行部数/約2万7千部
●販売場所/シアトル

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

この記事が掲載されている BIG ISSUE

316 号(2017/08/01発売) SOLD OUT

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