販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
英国『ビッグイシュー・ノース』販売者 エイドリアン
ルーマニアで祖父母と暮らす、4人の子どもたち 「私の人生は、家族のためにある」
ルーマニア出身のエイドリアンは、イングランド北部の町フォーンビーで『ビッグイシュー・ノース』を販売している。フォーンビーはビートルズを輩出した港町リバプールのすぐ北に位置する、人口2万5千の海沿いの小さな町だ。現在31歳のエイドリアンは、仕事を求めて2009年に英国へやって来た。
「ビッグイシュー販売の仕事は気に入っています。今はスーパーマーケット『アイスランド』の外で販売しています。いい場所ですよ。ここの人たちは私に敬意を払ってくれるし、常連のお客さんもたくさんできました。ここで月曜日から土曜日まで、朝の9時から夕方4時か5時頃まで販売します。子どもたちにお金が必要なので、できるだけ長く働いています」
エイドリアンには、離れて暮らす4人の子どもがいる。
「娘が3人と息子が1人。長女は12歳で、末っ子の長男は5歳です。以前は子どもたちも一緒に英国で暮らしていました。でも私が妻と別れ、子どもたちが英国で暮らすにはお金がかかりすぎたため、ルーマニアに送り返すしかなかったんです。子どもたちは今、私の両親の家に住んでいます」
ルーマニアでの子どもたちの生活は貧しいものだと言う。
「家族のことでは苦労が尽きません。両親はいくつも持病をかかえていて、病院へ通わなければならず、両親の薬代と子どもたちの養育費として、毎月お金を送っています。それに、子どもたちの衣類や靴も、小包で送っています。ルーマニアでは、こうしたものは高価なのに質がよくないんです。ルーマニアでは児童手当も少額で、月に40ポンド(約6千円)しかもらえず、それでは子どもたちに必要なものを買えません。子どもらと両親が住む家は、とても古く、屋根は壊れています。雨が降ると、寝室に雨漏りがするんです」
今の状況や家族のことを考えると、寂しさや悲しさがこみあげてくる。
「ほとんど毎日電話をしています。時には40分も話すことがあります。電話代は安いですから。子どもたちに会い、両親の世話をするために、時々ルーマニアに帰ります。今年も8月に帰って、9月まで向こうに滞在するつもりです。ずっとルーマニアで暮らしたいのですが、向こうでは十分に稼げないんです。ここで働いていれば、少なくとも子どもたちの暮らしは楽になります」
ルーマニアでは、貨物トラックの運転手をしていた。
「賃金はとても低かったのです。月に約120ポンド(約1万8千円)しか稼げず、子どもたちに必要なものを買うと、後には何も残りません。今はビッグイシューの販売者ですが、できればまたトラック運転手に戻りたい。ここフォーンビーの職業案内所に通って職を探したこともあるんです。面接の時は、後で電話するとみんな言いますが、電話をもらったことはないですね」
サッカーが好きで、イングランド代表とFCリバプールのファンだと言うエイドリアン。でも、今は子どもたちや両親のためにできるだけ働きたいので、趣味に費やす時間はない。
「私の人生は、私の両親と子どもたち、すなわち家族のためにあるのです」
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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