販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
ドイツ、『bodo』誌販売者ジェシカ
郊外の園芸用品店が私の持ち場。 お客さんの手伝いをしたり、植物を選ぶアドバイスも
ジェシカはドルトムントの町外れにある園芸用品店で『bodo』を販売している。彼女のお客さんや友人たちは、わざわざ電車やバスを使ってでも、出向く価値があると思っているのだ。その理由を探るため、筆者はジェシカの一日に密着した。
朝の10時、ジェシカと私はbodoの販売者用カフェスペースで落ち合った。事務所は、ドルトムント中心部に近いシュワネンウォール地区にある。コーヒーを飲んだ後、私たちはドルトムントとボシュムの間にある産業エリアに向かって出発した。
20分後、私たちはドルトムント駅から郊外に向かうS1線の電車に乗り込んだ。ジェシカいわく「いつもはホールデからバスに乗るんだけど」。今日は私が一緒にいるので、いつもとは違う行き方で向かうのだ。
「私は毎月定期券を買っています」とジェシカは続ける。「このところ毎年値上がりしていますが、それでも31・50ユーロ(約3620円)と、他の乗車券を買うよりはずっと安いんです。もし毎回乗るごとに切符を買っていたら、こんなに遠くまではとても来られません」
ドルトムント―オエスペル駅で電車を降りて歩きながら、「私は自然の中を散歩するのが好きなんです」とジェシカは言う。「何か嫌なことがあった時でも、外に出て新鮮な空気を吸うと、気持ちが落ち着いてきますから」
園芸用品店「ブルメン・リッセ」に到着すると、ジェシカはそのまま真っすぐに店長のオフィスに向かった。「ホフマンさんをご紹介しますね。とてもいい方なんですよ」
彼女の言う通りだった。ジェシカのいつもの販売場所で、ホフマンさんと一緒に撮影した。「普段はお店の出口の正面でbodoを販売しているんです。でも外が寒い日は、お店の中に入ってもいいって言われています」とジェシカ。失業後、体調を崩していたが、bodoの仕事を始めてから健康を取り戻せたという。
「ここにいるのは大好きです。道の反対側にあるスーパーで販売したこともありますが、それは数日だけ。私の持ち場は、このお店なんです」
「心地よく過ごせる理由は、ここの人たちが私のことを覚えてくれているからです。一度、たむろしている若者たちに嫌がらせをされたことがあるのですが、すぐに店員さんたちが外に来て助けてくれました」
お店のお客さんも素晴らしいのだと彼女は言う。「ほとんどのお客さんが私の顔を見知っていて、会うと挨拶をしてくれます。何も購入しない時も」
「私は、お客さんが重い荷物を車に運んでいく時に手伝いをしたりします。車の屋根に荷物を載せたまま発車しようとする人がいたら、呼び止めて教えたり、お客さんが買い物をしている間に愛犬の面倒を見たり。そうしていると、私も退屈しないんです」
私たちは園芸用品店に隣接するレストランで休憩をとり、一緒にコーヒーとワッフルを楽しんだ。するとジェシカは大勢の友人や知人に囲まれはじめた。
「たくさんの友人が、ベランダや庭に植物を購入する際のアドバイスを私に求めてきます。もちろん喜んでお手伝いしています」
お店の中をゆっくりと見て回っていると、ジェシカは私にそれぞれの植物のラテン語の名前を教えてくれた。「ヴィオラ・ウィットロキアナ、へデラ・ヘリックス、サリックス・カプレラ……」。5分もすると頭が痛くなってきた。
「実は、私は以前、大型の園芸用品店で何年も働いていたんです。だから、ここでbodoを販売できるのは、とても私に合っています。とはいっても、またいつかは園芸店で働くことができたらなと思ってはいますが」とジェシカは話してくれた。
一日が終わり、私たちは一緒に街の中心部まで戻った。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
293 号(2016/08/15発売) SOLD OUT
特集生き残る技能。ブッシュクラフト