販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

イタリア、『スカルプ・デ・テニス』誌販売者 モニカ

成長、安全、仕事。仲間と働くのは楽しい。 一人で悩んでいても何も解決しない

イタリア、『スカルプ・デ・テニス』誌販売者 モニカ

「ここ『スカルプ・デ・テニス』で、私は成長し、強くなれたと思います」と語るのは、イタリア南部、ナポリの街で、妹のマリアと一緒に雑誌を販売しているモニカだ。彼女は雑誌販売によって家族を養うだけでなく、編集スタッフの一員として『スカルプ・デ・テニス』の記事を書き、さまざまなワークショップにも参加している。
1994年に設立された『スカルプ・デ・テニス』誌は、イタリアで初めに作られたホームレスの人々の自立のためのストリート誌だ。カトリック系の人道支援団体「カリタス」から支援を受け、ミラノに本部を置き、ジェノバ、リミニ、フィレンツェ、ナポリ、パレルモなど、イタリア各地の街角で販売されている。
「スカルプ・デ・テニス」とはイタリア語で「テニスシューズ」という意味で、あるホームレスの人生を歌った有名な歌の題名に由来している。創刊時から変わらない雑誌のコンセプトは、路上で生きる人々、それぞれの物語が集まる広場の役割を果たすことだ。
ホームレス当事者がスタッフとして編集過程に携わっているのも、『スカルプ』誌の特徴の一つで、2015年には自由な報道に寄与したジャーナリズムに与えられる、伝統あるプレミオリーノ賞を受賞している。
モニカと『スカルプ・デ・テニス』との出会いは2002年に遡る。彼女は当時26歳で、夫を失くし、4歳の子どもを抱えていた。子どもの医療費と生活費の負担に耐えかねて、ついに助けを求めることにしたモニカは、ナポリ市からカリタスを紹介され、そこから『スカルプ』にたどり着いた。彼女は現在39歳。編集チームでは、実際に路上生活を経験した女性当事者として、ホームレスとそうでない人々との橋渡し役を担える貴重な存在だ。
初めて編集室へ来た時は自信がなく、とてもついて行けないと思ったとモニカは言う。しかし次第に落ち着いてくると、小さな課題に一つひとつ取り組み始めた。雑誌販売によって大勢の前で話す恐怖を克服し、自分の殻から抜け出し、取材のために同僚と話すことで、内気な性格を徐々に変えていった。
「夫の死後、とても重症のうつ病にかかり、自宅から一歩も出られなかった時期もありました。少し時間がかかりましたが、『スカルプ』は私にだけでなく、このプロジェクトに参加しているみんなにもとても力になってくれました」と、モニカは語る。
やがて彼女は編集室でも、受け持ちの販売場所でものびのびと振舞うことができるようになり、他の人々と楽しくつき合えるようになっていった。協力的で、控えめで穏やかな彼女の性質も引き立つようになった。
モニカにはもう1人、5歳になる子どもがいる。その父親とは別れたが、今はまた落ち着いた暮らしに戻っている。
「成長、安全、仕事。この3つが、『スカルプ・デ・テニス』で長い間編集と販売の両方をやらせてもらった私の経験を要約する言葉です」と、モニカは話す。
「それと、チームワークの支援と、『スカルプ』の性格でもある陽気さかな。ここの人たちはみな、それぞれに悲しい体験をしているけれど、他人をだし抜いて上に行こうとする人は誰もいないんです。編集チームの仲間と働くのはとても楽しい。一人で悩んでいても何も解決しない、というのが私の結論なんです」

(Marta Capuozzo/Courtesy of INSP News Service www.INSP.ngo /Scarp de Tenis)

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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