販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
メキシコシティ『ミ・バレドール』販売者 オスカル と オラシオ
路上に自分の持ち場があることをうれしく思ってる
『ミ・バレドール』は、今年2月にメキシコシティで創刊された、最も新しいストリートペーパーだ。画家であり社会活動家のマリア・ポルティージャと5人の仲間の女性が中心となり、「ストリート・サッカー・メキシコ」と地元の教会のNPO「ラ・カルパ」の協力、クラウドファンディングによる幅広い市民からの支援も得てスタートした。
写真やアートをベースとしたこの雑誌は、メキシコシティの路上で暮らす何千もの人々の日常をいきいきと伝えている。このたび、二人の販売者が取材に応えてくれた。
まず、オスカルが語り始めた。「僕は恵まれた家に生まれ、恵まれた教育を受け、何の不自由もしていなかった。路上生活を送るようになったきっかけは、学校で落ちこぼれて、ドラッグに関心を持つようになってしまったからだ。当時の僕は、いつでも元に戻れるとたかをくくっていたんだ。そして自分の身の丈に合わない犯罪グループに入ったことで、自分自身を孤立した状況へと追いやってしまった。せっかく就いた教師の仕事も棒に振ってしまい、疲れ果てるまで、次から次へと連邦刑務所を転々とする生活を続けた」。何度目かの服役の後、犯罪組織と縁を切った彼は、建設の仕事に就き、ある程度の収入は得られたものの、帰る家を失ってしまった。
「その頃の僕は、安価なホステルの存在を知らなかったから、ホテル代を払い、めかし込んでは外出ばかりしていた。着飾ることで違う自分を装うことができたし、怪しまれることもなかった。高級レストランに行き、お金を使いまくる生活を続け、まるで自分がボスになったかのような気持ちでいた。本当なら貯金すべきだったのにね」
やがて彼は、ホームレス向けのホステルに移る。そこではみながドラッグをやっていたが、味はともかく十分な量の食事があり、宿泊代から食事代までほとんどお金を使わずに済んだという。
「『ミ・バレドール』は、そんな僕に新しいドアを開いてくれた。今では路上の現実も見えるし、自分にも期待が持てるようになった。人との交流は、仕事で最善を尽くそうという気持ちにさせてくれるよ」
もともと勉強が好きで、出所後は考古学、人類学、瞑想などを独学で学んだというオスカル。現在の夢は仕事を探している人たちが住めるコミュニティハウスをオープンさせることだそうだ。
一方のオラシオは、メキシコシティに数多くみられるストリートチルドレンの一人だった。
「健康上の問題で、今は無職なんだ。僕は家庭内暴力から逃れるために10歳の時にアステカシティにある家を出た。ガリバルディ広場にたどり着いて、他の路上生活者たちに交じって暮らし、ドラッグに染まった。15歳の時には、中心街にあるアラメダセントラル公園で寝泊まりしていたよ。夜には露天商から掃除や彼らの場所を管理する仕事をもらった。男娼の仕事もした。そんな貧しい生活を続けていたから病気になり、ついには不治の病にかかってしまったんだ」
仕事を失った後、彼はすっかり引きこもっていたという。「だからこの雑誌は、自分にとって本当にありがたい存在なんだ。今後はワンルームのアパートや身体を洗える場所を見つけ、手作りするクラフトの経費を賄えたらいい」と話すオラシオ。
「路上に自分の持ち場があることをうれしく思ってるよ。本来公的な道路で生活するのは、この国では違法行為なんだ。だからこの雑誌は、最終的に路上生活者をなくすことを目的としている。たとえ子どもの頃から虐げられてきたとしても、勇気を持って前進しなければならないということを、自分自身で証明できる場所でもあるんだ」
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
275 号(2015/11/15発売) SOLD OUT
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