販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
座談会 ― 住宅問題 その1
路上、睡眠は11時半~4時。 "泊まり仲間"いて寂しくない
ビッグイシュー販売者にとって、野宿生活を脱出してアパートに入るまでは、さまざまな難関がある。いったい、どんな問題があって、どのような苦労をしているのだろうか? 東京の4人の販売者に話を聞いた。2回に分けてレポートする。
ゲストハウス、漫画喫茶、野宿、
それぞれの寝場所
――みなさんは今、どこでどのような生活を送っておられるのですか?
花渕 私はゲストハウスにお世話になっています。家賃は月2万8千円。そこに入って一ヵ月が経ちましたが、夜、ぐっすり休めて満足しています。路上に寝ていた時は、1、2時間ごとに目が覚めていましたから、その時に比べれば夢のようです。
木村 今は新宿駅周辺で寝ています。暑くなってきたら風通しのいい場所に移動するつもり。雨の日は、開放される役所の下の駐車場に寝ています。
吉澤 私はほとんど漫画喫茶。以前は路上でしたが、ビッグイシューを売り始めてから漫画喫茶に泊まれるようになりました。それでも月にするとかなりの出費。サービスパックをめいっぱい使っても、ひと月、5万円ほどかかってしまう。だから今はアパートを借りようと思って具体的に動き始めています。
井上 花渕さんと同じゲストハウスに泊まっています。12人の共同生活。ドミトリー形式で2段ベッドで寝ています。若いころバックパッカーをやっていたことがあってゲストハウスの情報に明るかったんです。東京には外国人や若い人向けのシェアハウスが結構あるんですよ。今の家は、敷金や礼金、身分証は必要ありませんが、むしろ、共同生活ができる人かどうかが重要視されるので、知人経由などでないと入居ができません。共同生活がきちんとできるなら、快適だと思います。
――安定した住居がないことでつらいこと、困っていることは何ですか?
木村 私の場合、路上に慣れてしまっているせいか、つらいと思ったことはほとんどないんです。体調も悪くない。イビキがすごい人がいてそれで眠れないことくらいかな(笑)。睡眠は夜11時半から朝4時まで平均4時間ほど。寝袋に毛布をかけて寝ています。寝袋の性能がいいのか、身体が慣れたのか、真冬でも何とかやり過ごせますよ。
なぜかわからないんだけど、自分のまわりに人が集まってきてうるさいくらい(笑)。〝泊まり仲間〟みたいなメンバーが複数いて、いつもバカ話してます。だから寂しいことはない。現状何とかやっていけるから、すぐアパートに入ろうという気になりにくいんでしょうね。今年中には路上生活を脱したいと思っているんですが。後はなるべく規則正しく、メリハリある生活を心がけています。
生活のリズム
取り戻したい
花渕 規則正しい生活、重要ですよね。路上にいると天候に左右されて寝場所が変わったり、他人に起こされたりするから、睡眠が不規則になってしまう。そのせいで体調を崩したこともありました。ゲストハウスに入ってよかったのは、生活のリズムをつくれるようになったこと。今は朝5時半に起床、シャワーを浴び、コーヒーを飲んで6時半に家を出ます。共同キッチンで料理もできるので、他の住人と一緒にカレーやパスタを作ることもある。少しずつリズムを取り戻し、元の生活に戻る準備をしている感じかな。
井上 僕はホームレス状態になって間もない頃、外で寝ようとしましたが「ここはお前の来る場所じゃない」ってイジメられ、上野、新宿、渋谷といろんな場所をさまよっていたことがありました。夜眠れなくて、昼公園のベンチで仮眠を取る生活。野宿が怖くなってしまったんです。
ビッグイシューの販売を始めてからは漫画喫茶に泊まっていたけれど、出費がバカにならない。だから2万円台で入れるゲストハウスはありがたいです。孤独になりすぎることなく、共同生活する住人が近くにいることも気に入っているところ。お金を貯めて、いずれゲストハウスと同じぐらいの家賃のアパートを借りて生活したいですね。
吉澤 決まった家がないと荷物を預けるロッカー代、シャワー代、食事代とか、結構いろいろかかってしまうんです。あとは時間。漫画喫茶も格安になる時間帯に利用するから、毎朝5時前に出て、販売を始めるまで時間を潰さなければならなくなる。そういう無駄をなくしたいからアパートを借りたいなと思うようになったんです。
アパートの敷金を貯めるために、がんばって約1年ほどかけて貯金しました。最近、具体的な物件探しを始めましたが、保証人の問題とかいろいろあってなかなか大変。1年かけて目指してきたことなので、めげずにがんばりたいです。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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