販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
「今月の人」OB編 Hさん
なつかしい常連さんとも再会。次の目標はヘルパー2級
販売者時代と同じく人懐っこい笑顔を見せ、待ち合わせ場所に自転車でさっそうと現れたHさん(55歳)。ビッグイシューを販売し始めて2年が経った今年2月、宣言通りに「卒業」し、新たな道を歩み始めている。
「自分の中の目標として、丸2年で卒業するって決めてたんだよ。卒業後は、売り上げの中から少しずつ貯めていたお金でやりくりして、ハローワークに通ったりして就職活動をしたんだけど、正社員の職を見つけるというのはなかなか厳しかったね……。でもそんな時、俺はビッグイシューの販売を2年もがんばったんだってことが、いつも大きな支えになってたよ」
目指していた正社員の職ではなかったが、スーパーマーケットの清掃の仕事にパートタイマーとして採用された。「ホームレスの時代があったから、今の自分がある」と、職場にはビッグイシューの販売者だったことも話しているそうだ。働き始めてしばらくした後、どんな仕事をするにしてもパソコンの基礎知識は必要だと痛感し、職業訓練校でのパソコン講座と仕事とを両立させる日々が始まった。
「学校に通うのが決まった時、仕事は辞めなきゃいけないかもと覚悟したんだけど、同僚のおばちゃんたちが『Hさんは必要な人だから、辞めさせたらダメ!』と上司に口ぐちに言ってくれたみたいでね。授業のない週末しか仕事に来られないのに、スーパーの人もそれでもいいよって言ってくれて、本当にありがたかった」
職場では清掃だけでなく、休憩時間や仕事後に壊れた照明を付け替えたり、緩んだ水道管や同僚の自転車のパンクを修理したりと、「俺、そういうのはすごく得意だからさ」と進んで業務外の役割を買ってでていたという。職場から必要とされる存在となり、3カ月間のパソコン講座修了後、再び平日にも出勤することとなった。
「身体が動く間は、仕事をして自分の稼いだお金でご飯を食べたい。それが俺の人間としてのプライドかな。もうホームレスには戻らないと自分に誓ったから、仕事はしっかりがんばろうと思ってる。だからこそ、働く意欲のあるホームレスが社会復帰できるシステムがもっと必要だと感じるよ。ビッグイシュー以外にも複数の選択肢があれば、とくに行政がもっとそこに力を入れてくれたらいいのにと思う」
先日、現在の販売者の応援も兼ねて、担当場所だったJR高槻駅前を訪れた。すると、懐かしい常連さんたちとも次々に再会。「元気にしてるの?」「これからもがんばってね」と温かい言葉をもらい、胸が熱くなったと話す。
「販売者時代は1時間が1日に思えるほど時間が長く感じられて、どうしたらもっと売れるんだろうと悩んで、肉体的にも精神的にも相当しんどかった。でもそんな時に勇気をくれたのがお客さん。優しい言葉をかけてくれたり、笑ってくれたり、すごく励まされた。再び会えて、今の僕のことを報告できて本当によかったよ」
販売者になる前は、本気で首をつろうと考えたこともあったというHさん。
「ビッグイシューに救われたようなものなんだ。いつも励ましてくれるお客さんや親身になってくれるスタッフ、ホームレス・ワールドカップで一緒にがんばった仲間たち……。俺は本当に人に恵まれているよ。みんなが支えてくれたから今がある。この出会いは俺のかけがえのない財産だね。みんなにありがとうって大きな声で言いたいよ(笑)」
一生続けられる仕事をしたいと、今ヘルパーという職業に関心をもっている。ヘルパー2級の資格を取るために、学校にも通う予定だ。
「人とのコミュニケーションが大事な仕事だけど、それはビッグイシューでの2年を含めてこれまでの人生の積み重ねがあるから大丈夫。読み書きが苦手だから専門用語を覚えられるかが不安だけど、チャレンジしてみるよ。勉強する中でこの仕事が向いていると思えたら、命尽きる時まで介護という仕事に取り組むつもり。なんだか今、すごくワクワクしてるんだ」
一生続けられる仕事をしたいと、今ヘルパーという職業に関心をもっている。ヘルパー2級の資格を取るために、学校にも通う予定だ。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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