販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

西口伸二さん

自立までの道は大変だけど いつも勇気を与えてくれるお客さんにいつか笑顔で卒業の報告をしたい

西口伸二さん

夏の厳しい陽射しが容赦なく照りつける中、すっかり日焼けした手でビッグイシューを掲げる西口伸二さん(42歳)。「お客さんが、日陰に入ったら?とか、休憩しながら販売してる?とか心配してくださったり、飲み物を差し入れしてくださったり、本当にありがたいです」
今年3月から販売者となり、京阪・天満橋駅東口にほとんど休みなく立つ。「せっかく来ていただいたのに僕がいないということがないよう、できるだけ休憩時間も短めにしているんです。近くに高校もあるから、高校生も時々買ってくれるんですよ」と笑顔を見せる。
出身は兵庫県の淡路島。兄と姉、妹がいる4人きょうだいの3番目。しかし、父親は3歳の時に失踪、母親も小学生の時に家を出たため、早くからきょうだい4人での暮らしが始まった。
「兄と姉は高校に通いながらバイトをし、僕にとっては親代わりでしたね。僕も小学生の頃から新聞配達の手伝いをしていて、中学卒業後に働き始めました」
島内の寿司店や工場で働いていた西口さんだが、家事のことで兄とケンカすることが増え、22歳の時に家を飛び出してしまった。それからは京都や名古屋、岐阜などを転々とし、ようやく落ち着いたのが愛知県。
「人材派遣会社の社員として12年ほど働きました。面倒見のよい社長でとても働きやすかったんです。でも、その社長が亡くなると会社も倒産。それからは、短期間の派遣の仕事しか見つからなくて……。大阪なら仕事があるかなと思ったのですが、なかなか就職できませんでした。そんな時に教会の人に声をかけられ、5年ほど住み込みでお手伝いをすることになったんです」
仕事を探そうと教会から出たのち、地下鉄清掃のアルバイトを数ヵ月。安定的な仕事をなかなか得られず、昨年夏に自立支援センターに入所した。今年の1月にセンターを出たものの就職先は見つからず、路上で眠る生活が始まったのが2月のこと。公園で時間をつぶしていた時にビッグイシューのチラシを手にし、2~3日考えたのちに「できるかどうかわからないけど、一度やってみよう」と事務所に連絡。3月半ばから販売者となった。
「最初に販売した号が、予想外に順調に売れたため驚きました。きっと前任の販売者さんの努力のおかげ。その常連さんが、引き続き僕から買ってくださったんでしょうね」
ところが次の号の販売が始まると、「辞めたい」という気持ちに襲われた。事務所を訪れ、対応したスタッフに「辞めようと思う」と率直に告げたという。
「明確な理由はなかったんだけど、ちょうど心に疲れが出てきた時期で、気持ちが切れかけていたんだと思う。でも、もやもやした思いを吐き出したことで冷静になり、またがんばろうという気持ちがわいてきた。今はもう、辞めたくても辞められない。応援してくださるお客さんに失礼なことはできないですから」
6月から、大阪・西梅田にあるホームレス共同経営店舗の第3期メンバーとしても奮闘中だ。いつもの販売場所を抜けることを心苦しく思いつつ、店舗販売で多くのことを吸収したいと意欲をみなぎらせている。
「接客の仕方など勉強になることは多く、路上販売にも活かしたい。店舗では頻繁に道を尋ねられますが、『おかげで、ちゃんとデパートに着けた。丁寧に教えてくれてありがとう』と帰りにわざわざ立ち寄って1冊買ってくださる方もいて、うれしかったですね」
残業で遅くなる人にも立ち寄ってもらいやすいようにと、9月末までは店舗の閉店時間を従来の20時から23時にまで延長するという。
「最終目標はアパートを借りて就職をすることだけど、そこに至る道のりは大変なはず。とにかく当面はビッグイシューの販売にしっかりと取り組みたい。縁あってこの天満橋で販売させてもらった以上、ここで一所懸命がんばるしかない。そしていつか、いつも勇気を与えてくれるこの天満橋のお客さんに、笑顔で卒業の報告ができたらいいなと思います」

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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