販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
Oさん
秋になる頃には少し落ち着いて、甲子園にタイガースの試合を観に行けたらなぁ
「長時間立っていても平気なのは、人と接するのが楽しいからかなぁ」とはにかむOさん。今年の3月末から江坂駅で販売を始めた。基本的には朝8時から夜8時まで販売し、新号発売時は朝7時からに早めたり、売り上げが伸びない日には夜9時近くまで延長することもある。疲労が蓄積しないか心配になってしまうが、Oさんが口にしたのは冒頭の言葉。
京都で生まれ育ったOさんは中学校を卒業後、大阪にある調理師学校へ入学。15年近く調理師として働いていた。30歳になるまでに、職場を4回ほど変わりながらも調理師の仕事を続けていたが、20代の半ば頃からギャンブルにのめりこんでしまう。給料から家賃と光熱費分だけを残し、それ以外をギャンブルに注ぎ込むという生活が数年間続き、ついにはサラ金にも手を出して借金が膨らんでいった。
家庭の事情もあり35歳から昨秋まで期間工や派遣の仕事を繰り返していたが、不況の波にのみこまれ、派遣切りに遭ってしまう。販売を始めてまだ3ヵ月弱だが、顔見知りになったお客さんと世間話をすることも増えてきた。「頑張ってくださいね」という励ましの言葉に、元気をもらうことも多い。「これまでの人生を振り返って思うのは、『継続は力なり』という言葉の重み。「秋になる頃には少し落ち着いていて、甲子園にタイガースの試合を観に行けたらなぁ」と野球少年だった頃の顔を見せたあと、「あきらめなければ、道は必ず開けると信じています」と力強く語ってくれたのが印象的だった。
「長時間立っていても平気なのは、人と接するのが楽しいからかなぁ」とはにかむOさん(44歳)。今年の3月末からビッグイシューの販売者となり、雨の日以外はほとんど毎日、大阪市営地下鉄・江坂駅の3番または8番出口で雑誌を掲げて立っている。「バックナンバーを集めているお客さんも多くてね」と、最新号以外のポスターも見やすいようにきれいに掲示している。
基本的には朝8時から夜8時までを仕事時間と決めているが、新しい号が発売になると朝7時からに早めたり、売り上げが伸びない日には夜9時近くまで延長することもあるそうだ。疲労が蓄積しないか心配になってしまうが、Oさんが口にしたのは冒頭の言葉。また、販売者仲間3人でグループホームを借りての共同生活が5月上旬から始まったことで、「毎晩、布団でぐっすり眠れるようになって、疲れも取れやすくなった気がしますね」さらに、立ち仕事がそれほど苦にならないもう一つの理由は、以前の職業にも関係している。
「僕は15年近く、調理師の仕事をしていたんです。厨房ではずっと立ちっぱなしですから、立って仕事をするのは慣れているんですよ」京都で生まれ育ったOさんは中学校を卒業後、大阪にある調理師学校へ入学。両親が共働きだったため、小学生の頃から自分で簡単な料理を作っていたそうだ。「勉強もあまり好きではなかったし、料理を作ることは嫌いじゃなかったので、母の勧めもあって調理師の道へ進みました。学校には1年間通って、和食と洋食と製菓を学びました。授業ではみんなでワイワイ言いながら料理を作るので、とても楽しかったなぁ」調理師課程を修了したのち、奈良県にあるゴルフ場内のレストランに就職。最初の1年はウエイターとしてホールの仕事を学び、2年目から調理を担当することになった。しかし、人間関係がうまくいかなくなり5年ほどで退職。
30歳になるまでに、職場を4回ほど変わりながらも調理師の仕事を続けていたが、20代の半ば頃からギャンブルにのめりこんでしまう。給料から家賃と光熱費分だけを残し、それ以外をギャンブルに注ぎ込むという生活が数年間続き、ついにはサラ金にも手を出してしまい借金が膨らんでいった。「家賃を払うのも厳しくなってきたので、一度実家に戻ることにしました。借金は10年かかってなんとか全額返済しましたが、この件は本当に反省しましたね」家庭の事情などもあり、35歳の時、寮に入ることができる期間工の求人に応募した。
たいていが3ヵ月更新という不安定な契約ではあったが、面接に行った翌日には寮に入れるということもあり、昨秋まで期間工や派遣の仕事を繰り返していた。しかし、不況の波にのみこまれ、いわゆる”派遣切り”に遭ってしまう。「その後はいくら面接を受けてもだめでした。西成にも行ったけれど、日雇いの仕事も本当に少なくて……。持っていたお金もいつしか尽きて、2月から路上生活が始まりました。
しばらくして、とにかく何か仕事をしなければという思いで、前から気になっていたビッグイシューの事務所に電話をしたんです」販売を始めてまだ3ヵ月弱だが、顔見知りになったお客さんと世間話をすることも増えてきた。「頑張ってくださいね」という励ましの言葉に、元気をもらうことも多い。「これまでの人生を振り返って思うのは、『継続は力なり』という言葉の重み。今まで職を転々としてしまったけれど、今後は何ごとにも踏ん張りたい。
まずはビッグイシューの売り上げを伸ばして、アパートを借りてひとり暮らしをすることが目標。そして、どんなに小さな会社でもいいから就職して、そこでずっと働き続けたい」売り上げを伸ばすという第1ステップをクリアするために、しばらくは休みを後回しにして街角に立ち続けるつもりだというOさん。「秋になる頃には少し落ち着いていて、甲子園にタイガースの試合を観に行けたらなぁ」と野球少年だった頃の顔を見せたあと、「あきらめなければ、道は必ず開けると信じています」と力強く語ってくれたのが印象的だった。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
121 号(2009/06/15発売) SOLD OUT
特集子ども貧困国ニッポン