販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
林正明さん
売り上げを伸ばすため、昨年9月から東京に。 この夏をがんばって乗り切りたい
5月半ば、初夏の陽気のある朝、東京・新宿ルミネ1前交差点を訪ねた。
「ここは日陰がないから、暑くなるとちょっと大変なんだよね」
大柄な身体に満開の笑顔を見せるのは林正明さん(52)。これまで名古屋や大阪で販売経験を積み、昨年9月からここ新宿ルミネ1前でビッグイシューを販売している。
「東京に来たのは、売り上げが伸びるかなと思ったから。新宿はやっぱりいろんな人がいるよね。ちょっと強面の人もいてヒヤッとすることもあれば、『がんばってね』と声をかけてくれるお客さんもいる。冬にはカイロを差し入れてくれる人もいたりして、本当にありがたいよね」
林さんは名古屋生まれの二人兄弟。しつけに厳しい両親のもとで育ち、中学卒業後に就職した。療育手帳を持つ林さん、中学卒業時に教師から「就職は難しいだろう」と言われたという。それでも働きたいと職場を見つけて働き始めた。
「最初はプラスチック製品を造る会社で、製造の仕事を8年くらい続けたかな。でも身体がきつくなってやめちゃった。その後はホームセンターで働いたり、段ボールをつくる工場で働いたり、いろいろな仕事を転々としたけど、どこもあまり長くは勤められなくて路上に出ちゃった感じかな」
ある日、知人を訪ねていった先の京都駅で、深夜にビッグイシューのスタッフから声をかけられた。
「『もし興味があれば』と教えてもらって、すぐに『やります!』って答えたの(笑)。実はビッグイシューのことはテレビで知っていたんだよね。買ったことはなかったけれど」
翌日、事務所で面談をして、大阪で売り始めることになった。「何歳の頃だったかあまりくわしくは覚えていないんだけど、スタッフから『接客に向いているから』と励ましてもらったことは覚えている。初めて売れた時はうれしかったなぁ」
林さんは朝8時から夜9時まで路上に立つ。雨の日は休み。一日1冊しか売れなくて「どうしよう」と事務所に相談した日もあれば、自己ベストで60冊を記録した日もある。販売にやりがいを感じながらも「つらいこと」が重なりくじけたこともあった。自立支援センターに入ったこともある。それでも再びビッグイシューに戻ってくるのは、仲間たちとの花見(ビッグイシュー基金、春の定例サロン)や、ダンサーのアオキ裕キ氏と路上生活の経験者によるダンスパフォーマンス「新人Hソケリッサ!」への参加など、楽しい思い出があるからだという。
「いろんな人とも出会えるしね。いつもはサラリーマンがよく買ってくれるんだけど、最近は台湾や中国の人も結構買ってくれるの。以前テニス選手(セルビア出身)のジョコビッチが表紙だった時なんかは、たまたまセルビアからの旅行者が通りかかって、通訳さん介していろいろ話しかけてくれたのもおもしろかったな」
目下の目標は、東京の夏を無事乗り越えることだ。
「最近、急に暑くなって、お客さんからも『暑いけど、倒れないでね』って声をかけられるんだけど、実は夏にビッグイシュー売るのは初めてなんだよね(笑)。せっかく『今月の人』にも出るし、『1年間はやらなきゃだめだよ』と仲間からも励まされているので、とりあえずこの夏をがんばって乗り切らなきゃね」
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
337 号(2018/06/15発売) SOLD OUT
特集“風”とおる暮らし
スペシャルインタビュー:真木よう子
リレーインタビュー 私の分岐点:西田 尚美さん