販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
Kさん
10個300円ぐらいで買える おいしいたこ焼き屋をオープンするのが夢
せんば心斎橋筋商店街中央大通り南側入り口でビッグイシューを販売しているKさん(41歳)。平日の8時から18時までを仕事の時間と決めている。
「立ち仕事は大変だけど、お客さんから『がんばって』と声をかけてもらえることが大きな励み。販売場所の目の前にあるかばん屋の店員さんたちも毎号読んでくれていて、本当に感謝の気持ちでいっぱいやね」
暑い日も寒い日も立ち続けるKさんだが、実は足に障害をもっている。ズボンの裾を少しめくって見せてくれた足首は男性にしてはとても細いものだった。
「足首から下が外側に向いた状態で生まれてきたみたいでね。赤ん坊の頃に手術をしたんやけど、その時に筋肉の一部とアキレス腱を取ってしまってん。だから筋肉もつきにくくて、ふくらはぎから下が他の人に比べて今でもすごく細いねん」
小学校2年生までは、足を保護するために鉄板の入った靴を履いていた。体育の授業は見学することも多く、プールの授業は足が目立ってしまうためとても憂うつだった。運動会も出なかったそうだ。今でも長時間の歩行やでこぼこのある道を歩くのはつらいというが、「ビッグイシューの販売は、でこぼこ道を歩き回るわけじゃないから大丈夫」と明るく話す。
Kさんは3人兄弟の長男として兵庫県尼崎市で生まれた。親が借金を背負っていたこともあり、住まいを転々とし幼少期に大阪へ。中学校卒業後は、家計を支えるために大手電機メーカーの工場で検品作業をする仕事に就いた。
「給料はまるまる全部、親が管理していて、お小遣いもあまりもらわなかった。そのお金で弟たちには高校に行ってほしかったからね」
20歳までは家族のために働いて、それ以降は飲食業の道に進みたいと考えていたKさん。20歳を過ぎた頃、興味をもっていたたこ焼き屋の屋台で働き始めることにした。
「人と話すのが好きでね。屋台の仕事はお客さんと世間話もできるから、すごく楽しかった。仕事も少しずつ安定してきて、結婚もした。だけど予想外にいろんなことが起こって、仕事も家族もすべて失ってしまってね……」
そして、31歳の時に路上生活が始まった。働こうという意志はあったものの、住所がないために雇ってくれるところは見つからなかった。
「住所がなくても、30代なら建築現場で日雇いの仕事ができたかもしれない。だけど僕の場合は足が弱いもんだから、それができなくてね。力仕事が無理で、住所がないとなると、働き口を見つけるのは本当に難しいんだよ」
教会の炊き出しでお腹を満たし、地域のケアセンターに入所したりしながらの路上生活が数年続いた。冬場は足がとても冷え、つま先がキーンと冷たくなってしまう。「今はまだいいけれど、このまま年をとってしまったらどうなるんやろう。そんな不安がどんどん募っていったね」
そんな時、ビッグイシューが創刊すると聞いた。
「重いものを持って歩き回るわけではないから、これなら足の悪い僕でもできると思った。自立したくても、身体が無理できない人にとっては足がかりになる仕事はなかなかない。だからこそ、ビッグイシューの存在は本当にありがたかった」
Kさんは今、売り上げの一部をコツコツと貯金中。昔からの夢だった「自分の店」を持つためだ。
「小さくてもいいから、いつか、たこ焼き屋をオープンさせたい。子どもも気軽に買えるように10個300円ぐらいで、一口サイズの食べやすい大きさのたこ焼き。ダシのきいた、これぞ大阪の味というものを作りたいなぁ。何年かかるかわからんけど、お金を貯めて早く鉄板や道具を買いそろえたい。そんな夢が、今の心の支えになってるねん」
応援してくれているお客さんたちともっとつながりたいと、ブログもスタートした。
http://blogs.yahoo.co.jp/hidekiyuurobeat
「自立することが目標やし、お客さんも僕が自立することを望んでくれている。できるだけ早く販売者を卒業して、また次にこの仕事を必要としている人にバトンタッチしていければ」
その声はとても力強かった。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
137 号(2010/02/15発売) SOLD OUT
特集もうすぐ春。日本ミツバチの羽音が聞こえる