販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
今月の人「新春座談会」(前編)
失敗しても「ビッグイシューがあるよ!」ぐらいの気持ちで、前に進んでいけたらいいよね
「今月の人」始まって以来、初の新春座談会。
大阪の販売者、Hさん(55歳)、Kさん(40歳)、Uさん(40歳)が集まって、新年の「希望と野望」、日々の暮らしについて語り合いました。
H 新年の始まりかぁ! みんなは、お正月はいつも通りに販売するの?
K 大晦日を休みにして、お正月は販売するよ。去年の元旦、お客さんがいつもと同じように自転車に乗って「新しい号、ちょうだい」って買いに来てくれたからね。だから今年の元日も新号の発売日ということで、いつもの場所に立つよ。
U 僕の販売場所はビジネス街だから、三が日はお休みさせてもらおうと思っています。去年のお盆、いつもどおりに販売していたんだけど、人通りがほとんどなかったから……。Hさんは?
H 俺も元旦だけは休ませてもらうつもり。映画でも観に行こうかなと思ってるよ。
K お正月って子どもの頃はワクワク感があったけど、最近はお正月らしさを感じることが少なくなってきたかな。身が引き締まる思いはするけれど、以前ほどではなくなってきたかも。
U 子どもの頃は、クリスマスとお正月というにぎやかな行事が続くこの時期がとても楽しみだったなぁ。でも、あっという間に過ぎ去って冬休みが終わってしまうんだよね。高校3年生になると、この時期には試験や就職、将来のことで頭がいっぱいになって、お正月どころではなくなってしまってた。社会へ出ようとする時にはすでに就職難で……。
K うん。バブルがはじけて景気が悪くなりだした時、僕は20歳。数年前の売り手市場はどこへやらという状況になっていたよ。
― 今年、こんなふうにできたらいいなという希望や野望はありますか?
H 去年は寝泊まりできる場所を確保して住所をもって、健康保険証も取得。ちょこちょこと積み立て貯金もしてきたから、1ヵ月は就職活動に集中できる時間が取れそうなんだ。もう一度、一般社会に出て、最低賃金779円(大阪府)をもらえる仕事に就きたいなぁと思っているよ。
K 僕も3年前に就職活動をがんばったんだけど、販売の仕事と並行してするのはやはり大変だった。昼間に面接に行って、夕方、ビッグイシューを売っている時に不採用の電話がかかってきて……の繰り返し。その後はリーマンショックもあって求人数も激減だし、景気もいまだによくならないしねぇ。
U この社会、落ちていくのは早いけれど、再びはい上がろうとするのはとても難しいことを実感してる。最低限必要となるお金だって、ゼロから貯めるのは本当に時間がかかる。住宅とか就職活動とか、ステップごとに公的なフォロー体制が整っていれば助かるんだけどなぁ。
K 住宅があるだけでも随分と再挑戦がしやすくなるのに、住宅の公的な支援はほとんどないからね。住所がないことは、就職活動をするのにとても高いハードルになるから。
H 俺はね、いつか農業に携わりたいなって夢をもってたの。自給自足の生活をしながら、収穫した野菜を少し売って生活の足しにして……なんて考えてたけど、将来的に関税が撤廃されて安い野菜が海外からどんどん入ってくるかもしれないっていうニュースを聞いて、この夢もあきらめたほうがいいのかなって思えてきた。
U 社会情勢って、結構な早さで移り変わるよね。僕の目標もやっぱり就職すること。でも、携帯電話もパソコンも持っていないから、就職するという目標以前に、社会のスピードにすでについていけなくなってしまっているなと感じるんですよ。年金も途中までしかかけていないし、これからそれらを全部立て直していかないといけないと考えると、本当に大変な作業だなって。
K うんうん。なんか僕の思いを代弁してくれてるみたい(笑)。
U 早く動かないと、と気ばかり焦る。でも、現実はなかなか何も進まない。若い頃は生きることはラクだと思っていたけど、ホームレスになってからはつらいと感じるようになった。今、心の支えになっているのは、家庭のこととか過去のことをきちんと清算しなくちゃいけないという思いかな。
K 僕は今、西成のドヤ住まい。まずアパートを借りられるようになったらいいなあと思うけど、もうちょっと時間がかかりそう。でも、まずはそこからかな。そして就職活動につなげていきたい。
H 失敗しても「ビッグイシューがあるよ!」ぐらいの気持ちで、前に進んでいけたらいいよね。でも、ホームレスが再挑戦するのを応援してくれる公的なサポートが他にも2つや3つあれば助かるんだけどなぁ。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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特集いま、当事者研究の時代― 北海道・浦河べてるの家から