販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
新春座談会【後編】
ただ、死ぬのがイヤだから生きていた。 でも、世の中捨てたもんじゃないって思えるようになった
昨年、雑誌の販売を始めた、大阪の新人販売者Tさん(62歳)、Hさん(57歳)、Pさん(47歳)。2013年を振りかえりつつ、今年の抱負を聞きました。その後編をお届けします。
―販売を続ける原動力となっているものは何ですか?
T まず第一は、今日の晩飯代を稼ぐこと。そのために毎日必死になって働いているなぁ。僕の場所は土日に人通りが多いから、その時が勝負!
H うん、僕も一日の終わりに一息ついて、「今日も一日がんばったなぁ」って、ちょっとだけお酒を飲むのが幸せ。もちろん、お客さんが親切にしてくれることも大きな励みになっています。僕のことをブログに書いてくれる方もいて、見守ってくださってるんだなぁって感激しちゃった。
P それはうれしいねぇ。僕は、売り上げを貯めて部屋を借りて、好きな仕事に就きたいって、そんな思いも原動力になっていますね。ものづくりが好きだから製造業が希望なんだけど、ビッグイシューを売るようになって、接客や販売もいいな、なんて感じるようになってます(笑)。
―ビッグイシューの販売者になって得たものはありますか?
T そうやなぁ。これまでよくわからなかった行政上の手続きなんかを、基金のスタッフに一から教えてもらえて助かったねぇ。どんな制度があって、どうしたら利用できるのか、一人だったらわからないままやったから。
P 僕は、これまでずっと人間不信に陥っていて、死ぬのがイヤだから生きていたという感じなんです。でも、販売者になって、世の中には優しい人もたくさんいるんだ、世の中捨てたもんじゃないって思えるようになったことが一番得たものかな。
H 僕も人と接するのが苦手だったけど、販売者になって周りから優しい気持ちをもらって、気持ちのもち方が変わったなぁ。
―ビッグイシューでは「鉄道部」「歩こう会」など、販売者さんのクラブ活動が盛んですが、参加されていますか?
P 僕はフットサル部に参加してるんだけど、たまに身体を動かすのは気持ちいいですよ。ボランティアさんもたくさん来てくれるし、学生や社会人や立場を越えて、和気あいあいな雰囲気が魅力!
T 僕は野球部員でキャッチャーをやってます。走ったりすると身体はキツイけど、参加してくれる学生さんと話すのも楽しくてねぇ。試合の翌日は、筋肉痛で起き上がれないんやけど……。
H 翌々日じゃなくて?(笑)
T うるさいわ!
―昨年から販売を始めて、だいぶ慣れてきたようですが、みなさんにとって次のステップとは?
H 年末に、ビッグイシューを応援してくれている方のご厚意でアパートにも入ることができたから、次は仕事探しかな。それと、できたら次は風呂・トイレ付きのアパートに移って、安心できる終の棲家にしたいですね。畳の上で死ぬ、が僕の目標だから。
T そうやなぁ。僕も今いる簡易ホテルを出て、独立したトイレとお風呂の付いた部屋で暮らしたいなぁ。
P うん、僕も、やっぱりまずはネットカフェ生活を抜け出して、部屋を借りること。路上で暮らしていた頃は、落ち着いて考えごともできなかったから……。そのためにも、今は毎月の売り上げにばらつきがあるから、安定させたいなぁ。目標は月に2千冊!(笑)
―2013年はどんな一年でしたか。また、今年はどんな年にしたいですか?
P 去年は絶望から始まった一年だったけど、ビッグイシューの販売者になって、いろんな人との出会いの中で人間不信からも立ち直って、少し希望をもつことができた。だから今年はその流れを加速させて、ビッグイシューを卒業したいですね。
T 僕も去年の初めはその日の食べ物と寝るところを探さないといけない毎日で、どん底やった。それが簡易ホテルに泊まれるまでになったから、今年はさらに落ち着いて暮らせる環境を手に入れたいねぇ。
H そうですよねぇ。僕は、人生は「旅」だから、Pさん同様、今年は他の仕事を見つけてビッグイシューを卒業することが目標。でも、ビッグイシューが大好きだから、卒業後も何らかのかたちでかかわり続けられたらいいなと思ってるんです。
T&P&H 読者のみなさま、去年は温かいご支援を本当にありがとうございました。今年もがんばりますので、どうぞよろしくお願いします!
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
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特集生きる喜び つくる病院