販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

カナダ『Megaphone』販売者 ヘンドリック・ブーヌ

研究職、貝の養殖、そして販売者へ 人々の良識は、自然と同じように役立つと教えてもらった

カナダ『Megaphone』販売者  ヘンドリック・ブーヌ

「『Megaphone』を売り始めたのは2009年です」と、カナダ・バンクーバーでストリート・マガジンを販売するヘンドリック・ブーヌは語り始めた。「今の経済システムは、利己的で破壊的だからこそ、『Megaphone』のようなコミュニティでつながりを築くことの大切さを感じています。『Megaphone』の販売は、人生の重要な一部ですね」 
 ダウンタウン・イーストサイドの常連客に配達をし終えると、街頭販売のためファーマーズ・マーケットまで赴く。「いろんなことをお客さんと話すんです。私には、長い間家がありませんでした。2010年に、ネズミの棲むみすぼらしいワンルームタイプのホステルから、やっとまともな場所に引っ越し、今ではそこに住んでいます」
 ヘンドリックは、もともとオランダ出身。10代の頃、ユトレヒト大学に合格したが、入学前に2年間の兵役を求められたため、エドモントン在住のいとこを頼って、カナダに渡った。「『もしかしたらカナダの大学に入れてあげられるかもしれない』と言ってくれたのです。彼がアルバータ大学入学を手配してくれ、そこへ通い始めました」 
 その後、ブリティッシュ・コロンビア大学へ転校し、74年に動物学と生態学の学位を取った。「北ブリティッシュ・コロンビア大学で仕事を得て、遠方の河の流域研究に駆り出されました。その後、ユーコン川での永続雇用を提示されましたが、そこまで孤絶した場所に行きたくなかった。デイブ・バレットの環境を意識した新民主党(NDP)政府のおかげで、しばらく地方の博物館で職を得ました。延長が可能な夏季の仕事だったので、その夏、また北に戻って森に入り、馬の背で夜通し旅しながら、グリズリー熊を研究しました」
 その後は4年半、水産海洋省で、フルタイムで働く。「今読もうとしている本の長さと同じく、650ページにおよぶフレーザー川河口についての報告書を書き上げましたよ」。報告書の完成とともに達成感を得、職を辞したヘンドリックは新天地へと向かう。
「生計を立てるために仲間と害虫防除会社を始め、約8年間続けました。その後は、サンシャイン・コーストの一番外側の端で貝の養殖を始めたんです。ほとんど人がおらず、野生動物だけがいる環境で12年間、ディソレーション・サウンドの大自然の中で暮らしていました。家族を持ち2人の子どもも育てましたよ。でも、40歳を過ぎて、毎日懸命に働いている中で腰を痛め、これ以上肉体労働に従事するのは無理になったんです」
 大自然から都市の路上へ、ヘンドリックは移り住み、『Megaphone』と出合った。「それまで福祉というものにかかわったことはありませんでした。プライドを高く持ち過ぎていたんでしょうね。バンクーバーに着くころには歩くのもやっとでした。『Megaphone』の記事は、社会の片隅に光を当てます。その奮闘ぶりには、いつも敬意を払っています。才能をもつ人がここにはたくさんいます」
「大自然での暮らしと違って、都市にはいろんな人々が住んでいます。互いを深く知り、バリアを乗り越えられれば、多様性のある健全な社会になる。つながりをもつことはとても大切です。人々の良識は、自然と同じように役立つことを、ここで教えてもらいました」
 ヘンドリックは、春、夏、秋の間はバンクーバーのトラウト湖、メインストリート・ターミナル、マウント・プレザント、キツラノ・ファーマーズマーケットで『Megaphone』を販売。各地の閉鎖後はナット・ベイリー・スタジアムのウインター・ファーマーズマーケットに立つ。

『Megaphone』
1冊の値段/2カナダドル(約194円)で、そのうち1・25ドル(約121円)が販売者の収入に。
販売回数/月刊
販売場所/バンクーバーとヴィクトリア

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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