販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
『ビッグイシュー・ノース』元販売者、ゲイリー・ウィリアムズ
販売場所のそばのレストランに就職。 「常に最善を尽くすこと。どんなことが待ち受けているかわからないから」
イングランド中部・シェフィールドにあるレストラン「ナリシュ」の常連客たちは、ゲイリー・ウィリアムズが料理を給仕する姿を見て、思わず二度見してしまうかもしれない。なぜならほんの1ヵ月前まで、彼はこの「ヘルシーなファストフードレストラン」の外でずっと『ビッグイシュー・ノース』の販売を行っていたからだ。
「以前はバーンズリーでフォークリフトの作業をしていたんだ」と45歳のウィリアムズは語る。「でも財政危機の影響で失業してしまった。当時は賃貸のアパートに住んでいたけど、家主が家賃補助を使って住み続けることを受け入れてくれなかったから、路上で暮らすようになったんだ」
そうしてホームレスになった彼は、食べていくために『ビッグイシュー・ノース』の販売を始める。当初はリード市街で働いていたが、その後シェフィールドの「ナリシュ」の外に場所を移すと、店のオーナーたちにたちまち好印象を持たれる。
「2013年の11月に、私たちはゲイリーに会いました」とスタッシュは話す。「私たちが彼に礼儀正しく接すると、彼も同じように接してくれました。おそらく波長が合ったんだと思います。彼は好意を受け取りっぱなしにすることなく、そのお礼だと言ってお店の手伝いをよくしてくれました。本当にいい人なんです」
「デイブにはよく食べさせてもらったよ。飲み物もただでくれたんだ」とウィリアムズは言う。「そのお礼にお店の雑用を手伝った。ごみを捨てたり、テーブルをきれいにしたりね。そうしているうちに、彼らがフルタイムの仕事を与えてくれたんだ。今はレジと清掃の仕事をしているよ。お店でワゴン車を使った移動販売を始めたから、僕も近いうちにそこで働く予定なんだ」
「ナリシュ」がシェフィールドのピンストーン通りに店を開いたのは2013年のことで、ウィリアムズが販売者の仕事を始めるほんの少し前のことだった。パイやカレー、ラップサンドやサラダなど多様なメニューをそろえ、通常のファストフードレストランとはひと味違い、地元の食材を用いて栄養たっぷりの食事を提供することを目指していた。
「僕たちは友達になり、ゲイリーに仕事を提供したいと思ったのは自然な流れでした」とスタッシュは語る。「彼は思いやりのある本当にいい人で、とても『ナリシュ』的な人物だったんです。別にホームレスの人を雇おうと思っていたわけではなく、あくまでもビジネスの視点から、適した人物だと思ったからです。そこが重要なんです」
雑誌の販売からより一般の職場への転職は、誰にでもできることではない。同時にまた、転職することがすべての販売者にとって最善策であるとも限らない。販売者の仕事こそが唯一自分がやりたいことだと考えている人たちもいれば、これは次に進むまでの足がかりと捉えている人たちもいるからだ。
「どれだけ雑誌の販売を続けるかについて、特に決まりはありません。各販売者の判断に委ねています」と語るのは『ビッグイシュー・ノース』の副部長、エマ・イートンだ。「でも、誰かが転職したという話を聞くのはいつでもうれしいものです。ゲイリーのケースは本当に素晴らしい例ですね」
ウィリアムズにとって「ナリシュ」のスタッフになって得られたことは新しい仕事だけではなかった。「2ヵ月前にアパートの部屋を借りることができたんだ。これでやっと自分の人生をスタートできるような気がするよ」
最後に、ビッグイシューの販売者でこれから転職を考えている人たちにアドバイスをと伝えると、彼はこう言った。「一所懸命働くこと。そして常に最善を尽くすこと。なぜならその先にどんなことが待ち受けているかわからないから。きっと物事はいい方向に動くはずだよ」
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