販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
英国『ビッグイシュー・ノース』販売者 ジェイミー
著名なイラストレーターが描いてくれた似顔絵 ビッグイシューの表紙になった。 好きな画家はゴッホ。私も絵を描いて過ごす
イングランド北東部、キングストン・アポン・ハル近郊に位置するヘスルは、大きな吊り橋で有名な、ハーバー川河口の港町だ。この町で『ビッグイシュー・ノース』を販売するジェイミー(42歳)は、ホームレスになって10年、販売者になってからも5年が経つ。路上やホステルを転々とし、今は友人の家のソファーを寝床にしている。音信の途絶えていた家族とも連絡を取りはじめたところだ。
そんなジェイミーの似顔絵が、『ビッグイシュー・ノース』の9月22日号の表紙を飾った。描いたのは、マンチェスターを本拠に活躍するイラストレーターのスタン・チョウ。数々のセレブ、テレビスター、スポーツ選手らの特徴をとらえた絵が世界的に有名だ。
チョウは2015年には、『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』(※)の表紙のために、当時大統領候補だったドナルド・トランプの似顔絵を描き、米ニュースデザイン協会の表紙デザイン賞を受賞した。それは真っ白の背景に漂う銀色のバルーンになったトランプで、トランプ自身は後にその絵を「バカバカしい」と切って捨てている。
チョウは似顔絵を描く時、まずモデルとなる人物の写真からその特徴を幾何学的な図形に表現し、そっくりになるまで調整していく。
「写真を眺めながら、頭のなかでどのような似顔絵にするかイメージを練っていきます。プロセスは比較的シンプルですが、骨の折れる作業になることもあります。というのも、ひとつの図形が1ミリでも大きすぎたり位置がずれたりするだけで、本人と似ても似つかなくなることがあるからです。似てきたところで、しわやえくぼ、髪の毛などの細部を加えていきます」
ジェイミーの場合、写真ではサッカーチームのウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ(通称ウルブス)のジャージを着ているが、チョウのイラストではクラブのエンブレムやスポンサー名は省略されている。
「イラストのジャージの色を見れば、ウルブスのものだとわかりますから。大切なのは細部をできるだけ省略しながら、見る人が自分でギャップを埋め想像できるよう最低限の要素を残すことです」
ジェイミー自身も絵を描く。仕事をしていない時はほとんど絵を描いて過ごし、作品が売れたこともある。
「販売者の仕事は気に入っています。おかげで生活ができますし、食べ物を買ったり、人と話すこともできますから。私は無口な方ですが、人の話や悩みを聞くのは好きなんです」
「ずいぶん長い間絵を描いています。学生時代からです。描いていると、気分がいいんです。模写もします。絵が上達しますから。好きな画家はゴッホですね。ゴッホの風変わりなところが好きです。もっと絵を描きたくて、絵の勉強に大学に戻ることを考えています」
スタン・チョウのイラストに登場した気分をたずねてみた。「誰かに似顔絵を描いてもらうなんて不思議な感じです」とジェイミーは笑った。「作品を見て、本当にわくわくしました。母やお客さんたちも楽しみにしてくれています。肖像権の使用料がもらえるのかな? もちろん冗談ですよ」
※ニューヨーク・タイムズ紙の日曜版についてくる付録雑誌
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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