販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

イタリア『スカルプ・デ・テニス』誌 販売者 トンマーゾ・カスカリーノ

販売者として全力を注ぎ、まともな生活を送っている。 もう一度、果物と野菜の販売を始めたい

イタリア『スカルプ・デ・テニス』誌 販売者 トンマーゾ・カスカリーノ

トンマーゾ・カスカリーノ、45歳です。10年前にストリート誌『スカルプ・デ・テニス』の販売を始めました。元販売者で、現在は編集スタッフのアントニオ・ミニンニのおかげもあってどうにか日々を過ごしてきました。長く暗かった月日の末に、今また光明を見いだしています。弟のジョヴァンニ(38歳)も同じです。
私たち兄弟はずっと二人で生きてきました。最初はナポリの北約25 kmにあるカゼルタ(カンパニア州カゼルタ県の県都)で、果物と野菜を売っていましたが、どんどん仕事が減ったためスイスに移り、その後ドイツを経てイタリアに戻ってきました。
ただ、そこからが本当につらい下り坂の日々でした。仕事も住む家もなく、弟と私はミラノのオルトレス通りにあるシェルターの世話になり、最終的には修道士が営むシェルターに行き着きました。駅で夜を過ごしたこともあります。ミラノの生協で働いた時期もありますが、それもうまくいかず、気づけばまた失業していました。
ごく最近になって、ミラノの北西約49 kmにあるヴァレーゼ(ロンバルディア州ヴァレーゼ県の県都)に住む母のところに身を寄せています。68歳になる母は最低金額の年金で暮らしていて、病気もたくさん抱えています。それでも、寝起きする場所があるだけでありがたいです。いつかは自分たちの家を持ちたいと思っていますが……。
今、私たちは教会の広場で『スカルプ・デ・テニス』誌の販売者としての仕事に全力を注ぐことで、まともな生活を送っています。また、毎月480ユーロの年金から200ユーロが生活費に消える母にも必要なものを揃えることもできます。常に働き口があり自立した生活に慣れていたので、シェルターでの生活は屈辱的で、私たちはとうてい馴染めませんでした。
ようやく希望が見えてきたところなので、今が独立した仕事に戻るチャンスだと思っています。もう一度、果物と野菜の販売を始めたいのですが、そのためには販売免許と冷蔵庫が要ります。だから、今はまだ理想でしかありません。
私の夢は、ごく普通の生活を送ること。つまり住む家と安定した仕事があって、ストレスを感じることなく、ひと月を過ごせればいいのです。
『スカルプ・デ・テニス』誌には間違いなく大いに助けられています。自分の尊厳を取り戻し、毎日の食事にも事欠きません。でも、カゼルタにはもう10年も行っていません。いつかは戻りたいです。それに、いつも恋人がいたのに、今はもう何年も独り身です。これからどうなるか? それは誰にもわかりません。

(Tommaso Cascarino, Scarp de’tenis/www.INSP.ngo)

『スカルプ・デ・テニス』
●1冊の値段/3・5ユーロ ●販売回数/月刊
●販売場所/ナポリ、ミラノ、ジェノバなど、イタリア各地

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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