販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

オーストリア・ザルツブルク、『アプロポ』 販売者 ゲオルグ・アイグナー

自分の話を聞いてくれる人はみんなセラピスト 講演と街歩きツアーで、貧困の現実を伝える

オーストリア・ザルツブルク、『アプロポ』 販売者 ゲオルグ・アイグナー

『アプロポ』で雑誌販売11年以上のキャリアを持つゲオルグは、販売者のほかにいくつもの顔をもち、ザルツブルクの社会教育にも貢献している。特に、学校や大学、企業などで貧困とホームレス問題について講演を行う「アンバサダー(大使)」の役割では、この6年で3千人ほどの若者に自身の体験を話してきた。
「自分の人生について話すのは、自分にとっていいことなんだと長年やってきて気づいたんです。たとえば、アルコール依存症の人が『私はアルコール依存症です』と言えれば、それは問題を半分克服したようなもの。そういう意味で、自分の話を聞いてくれる人はみんなセラピストです。より多くの質問を受けるほど、自分のためになるし、今でも私は答えを探しているから。お酒と攻撃的な行為がなぜ自分の人生の中で大きな部分を占めていたのか、それを知る鍵がどこに埋められているのかを見つけ出したい」
 アルコールに溺れ長年ホームレス状態にあったゲオルグは、強盗の罪で7年間刑務所に入っていた。その間、以前に路上で知り合ったエヴェリン(彼女はもっとベテランの販売者だ!)と2千通もの手紙のやりとりを行い、出所後に結婚。「刑務所にいる間に、広い視野で物事を見られるようになった。以前の私は路上で暮らし、すがるものが何もなかった。お金も住む家も、仕事も、ちゃんと続く人間関係も。そして前向きな考え方もね。でも刑務所の中で、人は人生を違う方向に変えていくことができるということ、選択肢というものがあるんだということに気づいた。常にネガティブな方向で暮らさなくてもいいとわかったんです」
 昨年9月には『アプロポ』を代表して新しい役割が始まった。かつてホームレス当事者であったという視点から、ザルツブルクを見つめる「ソーシャル・シティ・ウォーク」のプログラムを開発し、「貧困は現実に存在するということ」を歩きながら伝えるガイド役だ。
「元ホームレス当事者だった経験から、忘れることのできない恐怖や苦難、生きるための戦略について語るとともに、自分を助けてくれた福祉サービスや機関についても話している。誰もが貧困になりうる可能性から、みんな目を背けようとしている。私は、人がどのようにして生活困窮に陥っていくかということを知ってもらいたい。この街歩きツアーは、一般教養のようなものだと思います」
「自分が特別支援学校の教育しか受けていないことを考えると、このストリートペーパーでのキャリアをとても誇りに思っている」と話すゲオルグ。「貧しい人と接するのに一番よい方法として、あなたならどんなアドバイスをしますか?」と聞くと、彼はこう答えた。「穏やかに、フレンドリーに、そして相手に敬意を示すこと。彼らに自分が貧しいと感じさせるようなことはしてはいけない。私たちは物質的に裕福な人たちだけに敬意を示すという過ちをよく犯しているが、それはなぜだろう? お金があれば、よりよい人間になれるんだろうか?」

(Michaela Gründler, Apropos / www.INSP.ngo / 編集部)

Photo:Bernhard Müller

『アプロポ(Apropos)』
●1冊の値段/2.5ユーロ(そのうち1.25ユーロが販売者の収入に)
●販売回数/月1回刊
●販売場所/オーストリア・ザルツブルク

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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