販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

スイス『サプライズ』 非常勤スタッフ タレク・イスラミ

家族、婚約者のいるスイスで国外退去命令 周囲から闘い続ける勇気と強さをもらい、 難民でなくなる日を目指す

スイス『サプライズ』 非常勤スタッフ タレク・イスラミ

もしも10年以上暮らしてきた国から出ていけと言われたら、あなたならどうするだろうか。2017年暮れ、『サプライズ』で非常勤スタッフとして働くタレク・イスラミの身に実際に起きた話だ。スイス当局から国外退去命令が出されたのである。
「私は生まれながらの難民であり、それはこれからも変わらない――。クリスマス直前に国外退去命令を受け取った時、僕はそう思いました」。スイスに暮らしてもう12年。社会保障は一切受けずに二つの仕事を掛け持ちし、友人もたくさんいるイスラミ。家族もここにいて、婚約者も同じ地域で育った人だ。「でも、当局は僕に出ていけと言う。納得できません。ドイツ語もちゃんと話せますし、この国にもうまく馴染んでいます。スイスはもう僕の故郷なのです」
生まれはイランで、アフガニスタン難民の両親をもつイスラミ。「イランではアフガニスタン人は二流市民とみなされ、自分で商売を始めることも車を運転することもできません。僕は高等教育に進む道さえ閉ざされていました。ある時、もうこれ以上は耐えられないと思いアフガニスタンに移りましたが、当時は紛争が激しく、攻撃も日常茶飯事でした」。そんな状況下で、イスラミはやむを得ずイランに戻った。
「その後スイスに逃げてきたわけですが、今、そこを追われようとしているのです。母親や継父、兄弟姉妹を始め、親戚の多くはこの国スイスにいます。みんな逃げてくるしかなかったのです。それに、ドイツ語がうまく話せない彼らにとって、僕だけが頼りなんです」とイスラミは語る。
彼は13年12月からバーゼル市内にある『サプライズ』誌の営業所で非常勤スタッフとして働いており、雑誌の仕入れ対応や商品、販促ツール、販売場所の管理を担当している。「幅広い内容を任せてもらえていて、文化の異なる人たちとも知り合えるので、本当に気に入っている仕事なんです」。バーゼルのストリート・サッカーチームでは主将として長年活躍した後、トレーナーとしても貢献した。
「今のこの状況で一番つらいのは、先行きが見えないことです。イランにいた頃、いつも足元は不安定で、どこに行ってもよそ者扱いでした。スイスに来てからは自分のための人生を築いてきたのに、今、そのすべてが失われるかもしれないのです。よくコメディ映画を観るのですが、それも気を紛らわせるためです。時々、テレビの前で笑いながら泣いています」
どう立ち向かっていくのか、と聞くとイスラミはこう答えた。「不服申し立てを行うつもりです。国外退去命令を受けて本当に気持ちが沈みましたが、『サプライズ』の販売者やスタッフなどをはじめ、これまでに築いてきた人間関係のおかげで希望を捨てずにいられます。周囲の人たちがこれほど僕に共感してくれて、励ましてくれたり応援してくれることが信じられません。みなさんからの好意を感じますし、ここが自分の居場所だと思えます。難民ではなくなる日を目指して、闘い続けるための勇気と強さをもらっています」

(George Gindely, SURPRISE / www.INSP.ngo / 編集部)

『サプライズ(SURPRISE)』
●1冊の値段/6スイスフラン(そのうち2.7スイスフランが販売者の収入に)
●発行回数/月2回
●販売場所/バーゼル、ベルン、チューリッヒなど

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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