販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
英国『ビッグイシュー・ノース』販売者 アンディ
天国でもビッグイシューを売りたい。雑誌販売で、人生に必要な「よき偶然」に出合えた
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「いま私は47歳で、10週間後には48歳になりますが、そこが私の目標です。次の目標はクリスマスまで生きることです。その先に、次の目標はないでしょう」。昨年10月、ホスピスで行われたインタビューでアンディはこう語った。末期の肺がん、肝臓がん、食道がんという3つのがんと闘いながら、アンディは今年3月に息を引き取った。
リバプールなどで長らく販売者だったアンディは、雑誌を買ってくれた人々に感謝の気持ちを伝え、こうも話した。「私が死んだ際には『ビッグイシュー・ノース』と一緒に埋めてもらえたらありがたいです。天国の門に着いた時、私はその門の外側に持ち場を求め、生活を始めるための雑誌を何部か必要とするでしょうから。きっと、天使たちがやってきて、雑誌を買おうとするじゃないですか? 私は神のために一所懸命働くでしょう」。敬虔なカトリック信者らしい答えだった。
これまでの人生と自分自身について、アンディはこう振り返った。「私は自分の人生で、見た目などから判断されたり評価されたりすることが多かったように思います。でも私は、人を裁いたり、非難したりはしません。同性愛者や薬物依存症など、他の人たちが『ノーマル』と考えるものの外側にいる人を、多くの人々はカッコで括ります。ですが、そうした『外側の人』たちが誰かに害を与えたり、傷つけたりしていない時に、彼らを裁く権利がある人などいません。二人の男性が手をつなぎ、幸せそうにしているのを私が見たら―それは彼らにとってよいことなのだなと、私は考えます。そのことの、何がおかしいのでしょう? 愛は愛です。愛を持って生きる人は、憎しみを持って生きる人よりもよい人間です」
「あなたが何か悩みや苦しみを抱える人間であったとします。たとえばホームレスであることだったり、他の何かでもいいでしょう。そんな時、あなたの人生で何よりも必要なのは、誰もあなたを信用してくれないような中で、あなたのことを信用してくれる人と巡り合う『偶然』です。近頃の社会というのは、何かにつまづいてしまうと、次の機会を得るのは難しい。信頼を取り戻したり、誰かがあなたに好意的な手を差し伸べてくれるというぐらいのことにしたって、近頃はほんの偶然にしかありえないのではないでしょうか」
路上で雑誌を販売していると、そうした「偶然」に出合う機会が増えるのだと、アンディは言う。「時に素晴らしい人々と出会うこともありました。偶然の出会いの中で、誰かに笑顔を振り向けることができ、それを受け取った人々は、笑顔をお返しすることができます。そして、誰かに笑顔を振り向けることができたなら、その日は何か良いことができたということです。これはドラッグみたいなものです―ディーラーから手に入れられるものではないのですけどね」と話した。
アンディはこの記事を、自分が亡くなった後に掲載してほしいと望んだ。「私がどのように人々から思い出されたいのか、って? そうだな、少ないけれども何人かの人々の気持ちを変え、ホームレスについてのちょっとした意見を持った笑顔の男が存在した。そんなものであれば、天国の私は幸せなことでしょう」
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(Big Issue North / INSP)
(人物写真クレジット)
Photo:Jason Lock
(街並みの写真キャプション)
リバプールの街並み。葬儀もこの地で執り行われた
『ビッグイシュー・ノース』
●1冊の値段/2.5ポンド(そのうち1.25ポンドが販売者の収入に)
●販売回数/週刊
●販売場所/マンチェスター、リバプール、シェフィールドなどイングランド北部
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
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