販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
米国・ナッシュビル『コントリビューター』販売者 ポール・A
本来あるべき姿で、人生をやり直すには時間がかかる。その過程に辛抱強くつき合い、理解を示してもらえたら
彼の名はポール・A、65歳。午後の時間の大半を、ナッシュビルのダウンタウンの5番通りか教会通りで雑誌販売をして過ごす。2018年12月にミシガン州からテネシー州へと移住した彼は、今年1月に『コントリビューター』誌の販売者となり、7月には3年ぶりにアパートへ入居することができた。同誌を含む10を超える地域団体が尽力したという。
「『コントリビューター』の支援がなければ、私は今でもあのひどい橋の下での生活だったでしょう」とポールは語る。「だからこそ自分の最期の瞬間は、ぜひとも街角の隅でこの雑誌を手に持って迎えようと決めています。これは私の決意なのです」
視覚障害の認定を受けているポールは、通りを歩く顧客とのアイコンタクトに困難が伴う。30代の頃に始まったこの希少な障害により、視野は限られている。しかし、彼は人との会話を愛する人間であり、自分自身の人生を見失わずに独立心を保っている。入居申請の紹介状には“ポールは物事に前向きで、一緒に仕事をしやすい人間、信頼できる存在”と書かれていた。
屋根の下での暮らしは、日々の生活に大きな変化をもたらしている。きれいな空気を吸える住居は、慢性閉塞性肺疾患も患うポールの寿命を延ばすだろう。「住居を得たからには、心身両面を改善していきたい。ホームレス状態は健康に害を与えることをもっとみんなに知ってもらいたいですね」
賃貸契約を済ませた日には、その足で買い物へと向かった。購入したのは、3枚の新品のTシャツに1本のジーンズ、靴下や下着、石鹸、電気カミソリ。
「身なりはきちんと保っていたいと思っています。見苦しくない、いかにも路上生活者というのとは違う外見がいいですね。販売者になることは『コントリビューター』の代表になるということですから、髭を剃り清潔にすることで雑誌の評判が良くなればと思います」
ホームレス問題について独自の考えを持っているポールは、どこかの組織とともに、ナッシュビル市に対して意見表明をしようと計画中だ。彼の目論見はこうだ。住宅問題への対応として、市は廃ビルの活用を行うこと。その際に、ホームレス状態の人々に職業訓練の機会を提供し、訓練を受けた人々が雇用を得られるようにする――。
「私は自分のイメージを変えたいし、自分の評判も変えたい。変えたいことが山ほどあります。でも、自分が本来あるべき姿になり、人生をやり直すためには時間がかかります」とポール。「私が人々に願うのは、その過程に辛抱強くつき合い、理解を示してもらえたら、ということです。ホームレス状態を経験している私のような人間は、支援してくれる組織の助けが必要。そして、こうした組織が機能し続けるには地域や州、国などからの補助金がなくてはならない。より多くの人々を雇用し、路上生活から抜け出したいという人の望みを叶えるために、さらなる支援がほしいと思っています」
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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