販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

島田肇さん

『路上脱出ガイド』でビッグイシューを知った 「寒いけどがんばってね」「明日雨だよ〜」 お客さんの言葉がうれしい

島田肇さん

銀座と皇居に挟まれた日比谷界隈の、映画館や宝塚歌劇場などが軒を連ねる一角、JALプラザ前に島田肇さん(49歳)は立っている。
「ここは場所柄、落ち着いた雰囲気のお客さまが多いですね。会社勤めの人も多く、長話はあまりしないんですけど、『寒いけどがんばってね』とか、『明日は雨みたいだよ』とか気にかけてくれて、本当にありがたいですよね」
今日の取材のためにわざわざジャケットを着てきてくれた島田さんは、柔和な笑顔とさりげない気配りが印象的な紳士だ。ビッグイシューの販売を始めて、ちょうど1年が経つ。
「最初は本当に売れるか疑問だったんですけど、初めの1冊が売れた時はうれしかったですねぇ。それ以来、路上で嫌な思いをしたことって本当に一度もないんですよ。立ちっぱなしもそれほど苦じゃなくて。中高生時代は陸上部でマラソンをやってきましたから。販売で気をつけていることですか? 身だしなみと態度でしょうか。街中にずっと立っているから、笑顔を忘れないようにしています」
3人兄弟の末っ子として埼玉県に生まれた島田さん。「肇ってお名前、素敵ですよね」と褒めると、「両親がハナ肇(※1)を好きだったんですよ(笑)。3人兄弟の末っ子で″甘ったれ”だって言われていました」と笑う。その両親もそれぞれ島田さんが小学4年生と中学2年生の時に病気で亡くなり、以来、祖父母の家で暮らしてきた。
高校卒業後は印刷会社に勤め、週に朝8時から夜8時の昼勤務が3日、夜8時から朝8時までの夜勤が3日という生活を10年続けた。やりがいはあったが変化がほしくなった島田さんは、建設会社に転職。数ヵ月ごとに仕事場が変わる現場は楽しく10年ほど働いたが、3人部屋の寮暮らしが続き人間関係などに疲れ、千葉・成田のある教会にたどり着いた。
教会では、寝泊まりしながら礼拝や上野公園の炊き出しを手伝う生活を3年続けた。「教会でたくさんの人と出会いました。牧師さん方にもよくしてもらいました」。そんな島田さんにとって、上野公園の炊き出し風景は驚きだった。「5年ぐらい前ですが、本当にいろんな人がいました。およそ300人は並んでいたでしょうか」
その後、島田さんは山谷(※2)で日雇い労働をしながら生活するようになるが、年齢や体力的なことが理由でだんだんと仕事が少なくなって、路上で生活するようになっていった。
「隅田川が好きで、そこで寝泊まりしていたんです。桜の季節はさすがに花見客で寝ていられませんが、見知らぬ人から『兄さん、飲むかい?』ってお酒や食べ物の差し入れがきたり(笑)。そんなある時、夜回りボランティアの人に『路上脱出ガイド』を渡されてビッグイシューの存在を知ったんです。最後の10円玉を使ってビッグイシューに電話しました」
今は週5日間、9時から5時まで日比谷の街角に立っている。 
週末は教会で礼拝と奉仕活動をし、夕方は大好きな隅田川でのんびりと川を眺める日々。「ビッグイシューの中では、読者のマイオピニオンや人生相談の枝元さんの料理コーナーのページが好きです。『料理クラブ』(※3)では、枝元さんのレシピを見ながら販売者仲間と一緒に料理もしますよ。得意料理はカレーと肉じゃが」とうれしそうに語る。
「4月からはビッグイシューも価格改定しますが、応援してくれるお客さまのためにも、僕にできることはこれまで以上に心を込めて、一冊一冊丁寧に雑誌をお渡ししていくことだと思っています」

※1 日本のコメディアン。コミックバンド「ハナ肇とクレージーキャッツ」のリーダーだった。  ※2 東京都台東区・荒川区にある寄せ場(日雇い労働者の滞在する場所/ドヤ街)の通称。
※3 ビッグイシュー販売者によるクラブ活動

(写真クレジット)
Photos:横関一浩

(写真キャプション)
日比谷駅A2出口を出たJALプラザ前

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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