販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

『ビッグイシュー台湾版』販売者 ジン・フェン・シウ

肉体労働で身体が麻痺、貯蓄も住む場所もなくなった。 何が起ころうとも、雑誌販売の仕事を続けるつもり

『ビッグイシュー台湾版』販売者 ジン・フェン・シウ

「2018年から『ビッグイシュー台湾版』の販売者になりたいと思っていたのですが、健康上の不安もあり、昨年5月からようやく販売を始めることができました。長く続けるつもりですよ」。台湾南部、高雄市で販売するジン・フェン・シウは決意を込めた声で、こう語る。
シウがシェルターにたどり着いたのは2年前のことだ。顔面の麻痺が原因で仕事ができず、自分で家賃を払って家を借りることが難しくなった彼に、市の福祉課がこのシェルターを紹介したのだ。だが3ヵ月後には脳卒中に襲われ、麻痺は左半身におよんでしまった。 「母は、私が生まれてすぐに、家族を置いて出ていったんです。そして、5歳の時には父も亡くなりました。ですから私は祖母に育てられたんです。その祖母も亡くなってからは、ずっと一人で生きてきました。いつも屈辱的な扱いを受けて、とても大変な人生でした……」。シウの声は次第に小さくなっていく。
配管工や電気技師の見習いとして働いた後、台中市にあるベアリングを扱う会社に就職した。駐車場の警備員としても長く働いたし、建設現場を転々としたこともあった。
「警備員として働く前にちゃんとストレッチをしなかったからか、それとも健康的な食生活を送っていなかったからか――肉体労働に従事し始めてすぐに、病に襲われました」とシウ。「顔面麻痺で医者に行くと、まもなく仕事も辞めなければなりませんでした。収入もなくなり、貯蓄も底をついて、住む場所もなくなった。ホームレス状態に陥るしか、他に選択肢がなかったのです」
「当時は、お寺で配られる無料のお弁当をもらいに行ったり、いただいた残飯を食べたりしていました。落ちぶれてしまって、体調も優れない日々が続きました」
高雄市で生まれ、一度もまともな家に住んだことがないという。子ども時代は、父の仕事の都合で住む場所が次々と変わり、祖母と暮らしている時もそうだった。今住んでいるシェルターが、シウにとっては一番安定した住環境なのだという。「それでもやはり、ここにずっと住むことはできないでしょう。早く自分の家を持って、自立したいですね。何が起ころうとも、この雑誌販売の仕事を続けるつもりです」
シウは特に、販売場所の近くにある高雄医学大学の学生たちに感謝の気持ちを述べたいという。彼の身体が麻痺していることを知ると、医学生たちは雑誌を購入する際、彼の手の平から正しいお釣りを選び取ってくれるのだという。
「将来的には完全に自立したいと思っています」と、再び決意を込めて語るシウ。「移動が楽になるように、いつの日かお金を貯めて、電気自動車を買いたいと思っているんです」

Text:Yu-ruei Lu, The Big Issue Taiwan/INSP
『ビッグイシュー台湾版』
1冊の値段/100台湾元、そのうち半分が販売者の収入に
発行頻度/月刊
販売場所/台北市、高雄市など
Photo: Courtesy of The Big Issue Taiwan

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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