販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
セルビア『リツェウリツェ』販売者 スヴェトラナ・カリノフ
“社会に必要とされている”と感じられる販売の仕事
人生は美しいはず。新しいことに挑戦し続けたい
昨年、セルビアのストリート誌『リツェウリツェ』が私の住む街キキンダでも販売を始めると聞いた時、ぜひこの雑誌の販売者になりたいと思いました。まず何より、さまざまな話題を取り上げていて、雑誌自体がおもしろかったからです。だから今この雑誌を広めることに自分も貢献できていると思うと、とてもうれしいです。
私はこれまで仕事をしたことがありませんでした。小学校を卒業してからずっと家にいて、郵便局で働きたいと思ったこともありましたが、採用されませんでした。なので、通っているデイケアセンター(福祉施設)の活動に積極的に取り組み、料理をしたり、ワークショップに参加したり、農作業をしたりしてきました。
コロナ禍でも、人とのつながりを保つためにこうした活動は続けられました。でも、販売者として働くことと比べると少し物足りません。ロックダウンの時は街頭での販売を休止しなければならなかったのですが、何より仕事をして社会に必要とされていると感じたかった。販売再開の日が待ち遠しかったのです。
最近よく考えるのは、障害のある人の雇用状況についてです。私の友人の中には高校を卒業した人たちもいますが、それでも仕事を見つけるのは難しいようです。働くことは人生を豊かにすると思いますから、どうにかしてみんなが仕事に就けたらいいのになと考えています。
私はいつか〝商売をする人〟になりたいと思っているので、今の販売の仕事を楽しんでいます。この仕事を通じて、人生で初めて自分でお金を稼ぐことができ、自分が人の役に立っていると感じることができました。
『リツェウリツェ』のFacebookページを見ていたら、コロナ禍で経済的に困っている人たちのいることがわかりました。それで私は販売者仲間と相談して、直近2ヵ月の雑誌販売の収益を彼らに寄付することを決めたんです。もともとはノヴィ・サド(セルビア第二の都市)へ日帰り旅行するために貯めていたお金なのですが、私には家もベッドもあります。だけど、そうではない人たちも大勢いる。私はこれまで多くの人たちに助けられてきたので、私も誰かの助けになりたいと思って寄付しました。
私は生まれた時から手に病気があり、8度も手術を受けてきました。足の指もうまく動かず、歩くことにも問題を抱えています。でも、自然の中を散歩したり、絵を描いたり、音楽を聴いたりしながら、今の自分に心から感謝しています。人生は美しいはず。私は速くは歩けないけれど、新しいことを学んでいろいろなことに挑戦し続けたいと思っています。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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