販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
スウェーデン『ファクトム』販売者 デシスラヴァ・トロフ
物乞いしていた時の羞恥心、今では感じずに済む
母国で暮らす3人の子どもたちが人生の宝物
スウェーデン南西部の町ユングスキーレにあるスーパーの前で、デシスラヴァ・トロフが『ファクトム』誌を販売し始めてから数ヵ月が経った。
「この雑誌を販売する前は、6年間も物乞いをしていたんです。幸いにも多くの人によくしてもらったけど、恥ずかしかった」とトロフは言う。この場所で同誌を販売していたルーマニア人男性がいつしか姿を見せなくなり、「もしかしたら代わりに自分が販売できるかもしれないと思った」と話す。「夫のニコラとも話して、挑戦してみようということになったんです」
1度目の面接ではスウェーデン語がうまく話せず、思いを伝えきれなかった。2度目には、自分の目指す目標をよりうまく説明できたという。「スタッフに、ユングスキーレでぜひ『ファクトム』を販売したいって話したんです。今では夫も(さらに南部に位置する)メンダールで販売している。物乞いしていた時に感じていた羞恥心を、今では感じずに済んでいます」
トロフはブルガリア北西部ヴィディンにある「ユングスキーレよりもっと小さい町」、ドライアノベット出身だ。「町全体が貧しくて、経済的自立なんて望めない地域。ロマの人々は特にそうです」
トロフと夫のニコラがスウェーデンで働く間は、義母が3人の子どもたちの面倒をみている。娘は5歳、息子は7歳と9歳になった。「ブルガリアの学校はいろいろとお金がかかる。本、ノート、鉛筆、制服、昼ごはん……。だから稼ぎは家族の生活費に充てています」
そう語る彼女は3ヵ月に一度ブルガリアに戻り、1ヵ月間家族と過ごす。そしてまた3ヵ月スウェーデンで働いた後ブルガリアに戻るという生活を続けている。「子どもと会えないのは寂しいけど、義母と安全に暮らしています。朝晩、ビデオ通話で話していますよ」
『ファクトム』を販売する前は、キャンプ場や車で寝泊まりしていたという。「あの頃はとてもつらかった。でも最近、夫と(同国第2の都市)ヨーテボリで小さな部屋を借りることができたんです。シャワーもあるし、普通の人たちのようにテーブルで食事ができる。以前と大きな違いですね」
「人生に望むのはシンプルなことです」とトロフ。「子どもたちが健康で、必要なものを揃えることができますように。将来はもっといい仕事を得ることができますように」
「販売中に小学校の先生が子どもたちと通り過ぎることがあるんですが、あんな仕事ができたらいいなあ。子どもを見かけると、つい自分の子どもたちを思い出します。いつの日か一緒に暮らせたらいいのに、と思うんです」
先日、トロフは28歳になった。「人生で一番の宝は子どもたち。今、人生を前向きに歩むことができていることに心から感謝しています」
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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