販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
チェコ『ノヴィ・プロスター』販売者 レンカ
人生の底辺から少しずつ脱しつつある今
無事、州営団地に入居できますように
私はチェコ・プラハ北部にあるメルニークで生まれました。貧しい生活でしたね。両親は朝の3時には起きて、仕事に出かけていました。クリスマスの日も、大晦日も。
17歳からはプラハで暮らし始め、病院の清掃などいろんな仕事に就いてきました。病院では3年働きましたが、精神的につらかったです。未熟児のための病棟でしたから、よく赤ちゃんが亡くなるのを目にしました。上司からは感情移入しすぎてはいけないと言われていましたが、どうしても悲しくて。
その後結婚して出産しましたが、離婚を経験し、ちょうど同じ頃に両親が交通事故で亡くなりました。一度にいろんなことが起きたので、かなり気が動転して大変でした。
今はだいぶ調子がよくなりましたが、それでもまだ当時を引きずっています。家族で過ごす一大イベントであるはずのクリスマスも、今ではひっそりとお祝いしています。子どもは3人いたのですが、そのうち息子は亡くなりました。私の下には双子のきょうだいがいて、苦しい時には彼らが助けてくれましたね。
じつは、カナダに住んでいたこともあります。職を求めて海を渡り、ベビーシッターをしたり、溶接工をしたり。仕事が終わると英語を習っていました。旅行もたくさんしましたよ。ですが就労ビザが切れてしまい、チェコに戻ってきました。カナダではチェコ語をそんなに話さなかったので、母国に帰ってきてなかなか言葉が出ず、驚きました!
ほどなくして経済的に苦しくなり、『ノヴィ・プロスター』誌の販売を始めました。販売者になるのはこれが3回目で、今、プラハのスミーホフ駅で売り始めて半年が経ちます。
以前はなかなか仕事に就けず精神的に参っていたので、人と接しながら自分を取り戻す必要がありました。販売者になってからは徐々に調子を取り戻し、心の状態が好転しているのを感じます。調子が悪い日も、販売場所でお客さんと話しているうちに気分が晴れてくる。今でもよく覚えているのは、雑誌の代金とともにバナナを渡してくれたお客さんです。
休みの日には料理をしたり、お菓子づくりをしています。毎週土曜日には友人のためにシュトゥルーデル(※)を焼いていますよ。路上生活の頃はテント暮らしでしたが、プロパンガスの設備があったので煮炊きして食事をつくっていました。
あの時は人生の底辺にいた感じでしたが、ここから抜け出したいと強く願って、今は少しずつ脱しています。薬物やアルコールの依存症に苦しむ人も多く見てきましたが、私自身は幸運にもその罠に陥らずに済みました。今は知人の家に住まわせてもらいながら州営団地に申し込んでいて、結果待ちなんです。人生の次章で何が起こるか、楽しみです。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
405 号(2021/04/15発売) SOLD OUT
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