販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
カナダ・バンクーバー『メガフォン』販売者 ピーター・トンプソン
今夏、熱波による山火事で故郷の村が焼失
人々のために捧げる祈り。政府や企業には目覚めてほしい
61歳のピーター・トンプソンには3人の孫がいる。現在はカナダ、イースト・バンクーバーに住み、ホール・フーズ・マーケット前で『メガフォン』誌を販売しているが、元々はリットン先住民居留地出身だ。バンクーバーから車で約3時間、人口250人ほどの村リットンは、今年6月末に49・6℃という国内史上最高気温を記録し(※)、熱波による山火事で村の90%が焼失した。生まれ育った故郷への思いをトンプソンが語り始めた。
思い出すのは、誇り、愛、喜び、幸福に満ちた、活気のあるリットンだね。この村の人は来る者を拒まず、助け合って生きてきた。
夏には若者向けのキャンプがあって、魚釣りや食料の貯蔵法を学んだよ。缶詰、燻製、塩蔵――。作ったものは年配の人や障害のある人たちに持っていったりした。秋にはシカやヘラジカなんかを狩って、貯蔵する。そしてやっぱりみんなで分け合ったもんさ。
僕が生まれたのは1950年代の冬。病院にいる母をピーターおじさんが見舞いに来た時のことはよく聞かせてくれたなあ。「『名前はもう付けたのか』って聞かれて、私は笑ってこう答えたのよ。『ピーターにする』って」
幼い頃はよく、父方のジェニーおばさんの家に遊びに行ったね。広い庭があって、たくさん果樹が植わっていた。両親が家でおしゃべりしている間、子どもたちは外を駆けずり回って遊んでいたよ。
スネーク・フラット・ロードを北上したところにある、おじさんの家にもよく行ったね。夏の暑い日の晩なんかは、外で寝たりもした。でも、いとこが言うんだ。「ベッドの周りに塩を撒いとくんだよ。そうするとナメクジが寄ってこない。ナメクジが寄ってくると、それを餌にしているガラガラヘビがやって来るからね」って。外で寝る時は足がベッドからはみ出さないように、細心の注意を払っていたなあ。
大人になって最後にリットンを訪ねたのは、近くの町メリットに行く途中に寄った時だ。食料品店に行くと「ピーター、ピーター!」と声をかけられた。旧知の仲のヴィンスとガンビーだった。しばらく立ち話をして、ハグをした後、ヴィンスはこう言った。「帰りはうちに寄ってくれよ。おみやげ用に地元の食べ物を用意しておくから」。僕は「もちろん」と返事をしたけど、まさかこれが故郷への最後の訪問になるとは思わなかった。
今は、山火事で被害に遭った村のために日々祈りを捧げている。リットンの人たちは家や思い出の場所を失い、住むところを転々としているんだ。そしてもう一つの祈りは、政府や大企業に地球温暖化について目覚めてもらうこと。温暖化で水源はやせ細り、生命は枯渇している。地球が火星のようにならないことを願うばかりだよ。
※ リットンの6月の平均気温は25℃。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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