販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
オーストリア・ザルツブルク『アプロポ』販売者 イオン・フィレスク
出稼ぎと路上生活は子どもたちのため。 2つの世界をつなぐ、スマホの写真
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「幼少期に嗅いだ香りで覚えているものはありますか」と尋ねると、イオン・フィレスクは間を置かずこう答えた。「田舎育ちだからよく祖父と畑で過ごしたんだけど、新鮮な干し草の香りや強い夏の日差しを思い出すよ」
ルーマニア南部のワラキアで育ったフィレスク。ワラキアは、現在ルノーの傘下にある自動車メーカー・ダチア社の生産拠点ピテシュから25㎞ほどのところに位置するが、いたるところで貧困が影を落とす地域でもある。
好奇心旺盛だった彼は大学に進学したかったが、他の多くの級友と同様、経済的な理由からあきらめざるをえなかった。「地元では優秀な成績を収めていたんだけどね、それだけでは輝かしい未来に手が届かなかった」。そうしてフィレスクは、生活のため建設業界で働き始め、時には闇取引にも手を出し、最後にはオーストリア・ザルツブルクにたどり着いた。
その時以来、2つの世界を生きるようになった。一つは故郷。新鮮な...
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Text:Matthias Gruber, Apropos/INSP
Photo: Andreas Brandl
『Apropos』
1冊の値段/3ユーロ
(そのうちの半分が販売者の収入に)
発行頻度/月刊
販売場所/ザルツブルク
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
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419 号(2021/11/15発売)
特集もはや、多言語
スペシャルインタビュー:森山未来、リレーインタビュー:エルシャラカーニ・セイワ太一さん