販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
英国『ビッグイシュー・ノース』販売者 ルイス
雑誌販売、お客さんとの語らい楽しみ
くず鉄集めをビジネスにして、いずれは子どももほしい
イングランド北西部のプレストンで、ルイス(36歳)は手押し車を引きながら小道に入っていく。脇には飼い犬のジョージー。マリンリゾートもある町ライサムで『ビッグイシュー・ノース』を販売していない日は、ルイスはこうやって金属くずを集めている。「雑誌販売の仕事ではお客さんとの語らいが楽しみで、くず鉄集めはスリルを感じることができる。両方とも楽しんでいるよ」
10代の後半からくず鉄集めを始めたというルイス。「道端に落ちている缶だって数ペンスにはなるんだから、バカにはできないよ」と話す。今ではルイスが収集に来ることを知った近所の人たちが不要品を出してくれているが、今朝はなんと使い古された車が2台もあった。
今借りている赤レンガの家には、譲りうけた本に服、靴などが所狭しと並ぶ。「就職用の靴が必要」というご用命があれば、他の人に無料で譲ることもあるという。
この界隈で育ったルイス。初めて路上生活を経験したのは、家庭内で問題が発生した10代の頃だ。母親は今も近所に住むが、いまだに関係は良くないと語る。「当時のことはあまり思い出したくないね。人生の一番いい時期を無駄にしたよ」
学生生活は楽しんでいたものの、将来への展望は持ち合わせていなかった。簡易宿泊所で暮らしていたこともある。「数ヵ月住んだかな。住人には薬物依存の人たちも多くて、息を吸ったらヘロインの匂いがするくらいだった。それが嫌で、テントを持って半年ほど森で住んだこともあるよ」
ガールフレンドのジェイドは命の恩人だという。「ジェイドとジョージーがいなければ、今の僕はいないだろうね。それまでは15年ほど、朝ベッドから起きだす理由を見つけることができずにいたから」
ルイスとともに街を歩いてみれば、いいことも悪いことも、いろんな思い出が口をつく。空き地に寄ると「ここは10代の時に2本歯をへし折られた場所だね」。「あそこのカフェは、空腹で失神しかけた時にケーキを出してくれたんだよ。そのおかげで、翌日にはくず鉄が売れたお金で代金を支払うことができた」。角を曲がると、家中のものを庭先に出している家があった。早速声をかけると、「なんでも持っていってよ」とのこと。ルイスの目が輝く。
婚約中のルイスとジェイドは最近、いずれはほしい子どもについても話すという。くず鉄集めをビジネスとして軌道に乗せたいが、急ぐつもりはない。「最近はみんなが『あらゆるものを手に入れたい』って言うけれど、ぜんぶ手に入れたらクリスマスが味気なくなっちゃうよ」
「ルイスはクリスマスに何がほしいの?」と聞いてみた。「馬と荷車かな」と笑う。「でも、もしもらったとしても、どこにしまっておこう?」
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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