販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

カナダ『メガフォン』販売者 クリス・クロンク

僕が書いた “クリスマスの物語”
お客さんの心動かしたと聞いて、書くことを再開

カナダ『メガフォン』販売者 クリス・クロンク

クリス・クロンクがカナダ・バンクーバーで『メガフォン』の販売に携わり、同誌で記事を書くようになったのは2010年のこと。今では仲間の販売者ライターたちに、自身の経験から得た、ものを書くテクニックを伝授することもある。そんな彼が同誌の2021年最優秀販売者に選ばれた。
「気持ちはどう?」と尋ねると、「ノーベル賞を取るよりも、自分にとっては意味のあることだね!」と答えてくれた。「すべては『メガフォン』の販売から始まったわけだから。自分が正しい方向に進んでいると思えるのはうれしい」
 クロンクは、初めて『メガフォン』のもとを訪ねた日のことを覚えているという。「小さな事務所でね。扉を開けたら、机でつっかえたくらいだよ!」
「当時は『変わらなきゃ』と感じていた時だった。ちょうどコカインのために物乞いをしていた時期だ。でも、バンクーバーの街中で働いている一人の年配女性が近づいてきて『あなたはいつか必ずこの状況を脱するでしょう。目を見たらわかる、大丈夫よ』って言ってくれて」。その出会いと相前後して、クロンクは雑誌販売者として働き始めることになった。
 販売の仕事は、多くの変化をクロンクにもたらした。「人と話せるようになったのが大きいね。それまでは自尊心が持てずに、人目を忍んで生きていた。それから何かにつけて謝ってばかりだったり、言い訳をよくするのもやめにした。『ノー』の代わりに、時には『イエス』と言えるようになったしね。すると人々が僕に寄ってきてくれるようになって、ファーストネームで呼び合う仲にもなった。互いの半生を語り合うこともあったな。今では〝(販売者の)僕たち〟と〝(購入する)彼ら〟という垣根を乗り越えて、お客さんと接することができていると思う」
 そして、ある女性のことを話し始めた。「僕はいつも新年に気持ちが滅入るんだ。案の定その年も、もう販売をやめようって思い詰めていたんだ」とクロンク。「すると一人の女性があったかいコーヒーを携えて『私のこと、覚えていますか?』って訪ねてきた。『クリスマスに娘とここで少しお話ししたことがあると思うんですが』とね」
「それで思い出したんだよ。彼女の娘さんはある病に侵されていて、余命いくばくもなかった。でもその年、僕が書いたクリスマスの物語に心動かされたって、会いに来てくれたんだ」
「彼女はこう続けた。『残念ながら娘は亡くなりました。でも、あの記事の存在は娘にとって大きかったということを伝えたかったんです』って。それからだよ、僕が『メガフォン』で書くことを再開したのは。さっき話したバンクーバーの女性と同じで、こんな小さなやりとりが、僕の人生にはとても意味のあるものになっているんだ」

(写真キャプション)
今年2月、バンクーバーでは珍しく雪が積もった 
Photo: AlbertArt / Shutterstock.com
Text:Paula Carlson, Megaphone/INSP

(雑誌情報)
『メガフォン』
1冊の値段/2カナダドル
(そのうち1.25カナダドルが販売者の収入に)
発行頻度/月間
販売場所/バンクーバー、ヴィクトリア

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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