販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
『エチョ・エン・ブエノスアイレス』販売者 ルイス・フェルナンデス
現実に向き合うことができる雑誌販売の仕事
収入を得ることで成長し、一人立ちしたい
それは、2017年のこと。ルイス・フェルナンデスは仕事を失い、夢を追うためアルゼンチンの公立大学(学費は無料)でジャーナリズムを学んでいた。「ある日、教会に行く途中に母親が『エチョ・エン・ブエノスアイレス』誌の販売者を見つけて、雑誌を一冊買ってきてくれたんだ」
当時、ビルの管理人をしていた父と一緒に暮らしていたフェルナンデスだったが、さっそく同誌の事務所を訪ね、販売を始めた。1年ほど販売に従事した後、水処理会社の仕事が見つかり転職。だが、ほどなくして雑誌販売の仕事に戻り、首都ブエノスアイレスのアルマグロ地区とチャカリータ地区のロス・アンデス公園で販売を再開した。
現在35歳の彼は、雑誌販売で得た収入で日々の食料や生活必需品を賄っている。大学の授業がない今は「朝早く起きて販売場所に向かい、正午まで立つ。家でお昼休みをとって、時には散歩にも出るよ。そして売り場へ戻る道すがら、雑誌を販売することもある。ロス・アンデス公園では、人々に声をかけて雑誌の意義を説明したりもするよ」。
知らない人と話すことや新しい場所へ行くこと、たくさん歩くことも苦にならないというフェルナンデス。この仕事を気に入っている理由は、現実に向き合うことができるからだと話す。「もし家にずっととどまっていたら、何の変化もなく、ただ人生が過ぎていくのを見ているだけだろう。でも、販売の仕事をしている時は自分を〝闘士〟のように感じるし、収入を得ることで成長したいと思っている」
『エチョ・エン・ブエノスアイレス』誌はとても斬新な雑誌だと言う。「いろいろな境遇の人を助ける雑誌だよね。何か問題にぶち当たっても、誰かが助けの手を差し伸べ、前に進む手助けをしてくれる。そのおかげで自分を信じれば何でも達成できると思えるんだ」
大学での授業は、ジャーナリズムだけでなく言語学やコミュニケーション論も「人と話すことに関する学問だから楽しい」と言う。時間ができればよく書き物をする。「パンデミックの前は、学生たちで発行している雑誌によく寄稿したものだよ。早くキャンパスでの講義が再開されればいいな」
今はブエノスアイレスのカバジート地区で父親と同居しているフェルナンデス。母親はセラピストをしており、週末には、自身が生まれ育ったエル・ハグエル地区に住む姉妹を訪ねることもある。
「早く自活をして一人暮らしをしたい。ジャーナリストになるという夢を叶えたいし、両親、親戚、近所の人たちともうまくやっていきたい。でも直近の一番の夢は、リンダに会うことかな」。大ファンだという、90年代に流行ったメキシコ人歌手リンダ・アギーレの名前を挙げて、茶目っ気たっぷりに笑った。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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