販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
オーストラリア・メルボルン『ビッグイシュー・オーストラリア』販売者 マリアン
荒波の中、あなたは悲しみを喜びに変える術を学んでいく
後の晴れた人生につなげるために
メルボルンで『ビッグイシュー・オーストラリア』を販売するマリアンは、若き日の自分に手紙をしたためた。
親愛なる、若き日の私へ
あなたの呼び名も、人生の歩みの中で変わってきましたよね。まるであなたの目の色が、青色から青緑、青紫、青みがかったグレイへと変わってきたように。
人生に困難はつきものだから、ここに励ましの言葉を記します。時には、とても超えられそうもない人生の荒波が襲うこともあるでしょう。精神疾患、性的暴行や虐待と遭遇するかもしれません。悲しみにくれることも。
でも、あなたは強い。悲しみを喜びに変える術を、やがて学んでいきます。たやすいことではないし、すぐに身につくものでもありません。それでも、あなたは傷つきやすい心を持ったまま、非暴力で屈せずに生きていくことを学んでいくのです。
お父さんが自ら命を絶った時、あなたはもうすぐ12歳になろうとしていましたね。必死で父を探したけれど、見つからなかった。人が自ら命を絶つことの悲しさを知った瞬間でした。あの頃感じていた、方向を見失ったような感覚は、薄れることはあっても消えることはないでしょう。
やがてあなたは、物事には一見しただけではわからない奥深さがあるということを知っていきます。そして、学ぶことに喜びを見いだすのです。親切で賢明な友人たちとの出会いによって、あなたがもっていた緊張感は目に見えて和らいでいくでしょう。
こうしてあなたは気づくのです。これまでの自分は、終わりのない灰色の平たい海を飛んでいた、くすんだ色のスズメだったのだと。飛行を助けてくれる風は吹かず、ただすべきことをこなす毎日だったけれど、それは後の晴れた日々につながる訓練だったのだと。
スズメからハイタカに、やがてワシへ。あなたは、オナガイヌワシの家族が暖かい環流に乗って螺旋を描き、いずれは消えていく のを見つめ、喜びに浸るでしょう。
あなたは土に触れ、瞳に空を映しながら外で働くことの楽しさを覚えます。そして詩人となり、鍛冶の仕事に就くでしょう。フィンランドの叙事詩『カレワラ』に出合う時には、あまりの素晴らしさに衝撃を受けることと思います。
たくさんの夢を持っているあなた。叶わないものもあるけれど、それらの夢が美しい出会いや想像もつかなかったようなことを人生にもたらすでしょう。
だから恐れないで。あなたは娘を持つことにもなります。鼻を鳴らして笑うところが、あなたとよく似ている。あなたは娘のことを誇りに思うでしょう。
愛こそ世界のすべてであり、そのためなら長年の痛みに耐える価値があるものだと知ってください。生きていることに、そして、「ビッグイシュー」のコミュニティの一員であることに喜びを抱くでしょう。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
431 号(2022/05/15発売) SOLD OUT
特集こちら「宇宙天気」予報
スペシャルインタビュー:又吉直樹