販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
『アプロポ』販売者 イオネラ・タマス
ドイツ語を習得したら、子どもたちを呼び寄せたい
ここには、私をハグしてくれるお客さんがいるから
ドイツ語を片言しか話せない26歳のイオネラは、彼女の身の上をほとんど母語のルーマニア語で話してくれた。故郷は、今いるザルツブルクから1255kmほども離れたルーマニア。住民の数が年々減りつつある、ピテシュティ市近郊の南部の村で生まれ育った。彼女が想いを寄せるのは、その地に住む3人の子どもたちのことだ。
将来、警察官になるのが夢だという8歳の長男、そして5歳になる幼稚園児の双子の兄弟。息子たちについて話し始めた途端、イオネラの目から涙がこぼれた。「今度はいつ帰るの?」と尋ねると、手元を見つめながら彼女はそっと答える。「できることなら、今すぐにでも」と。
イオネラが生きる糧を求め、オーストリアへたびたび通い始めてからもう4年になる。2020年の厳冬に味わったおぞましい経験を振り返りながら、それまで笑みを浮かべていた彼女の表情もこわばっていた。当時はちょうどコロナ禍で、緊急シェルターも閉鎖さ...
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
488 号(2024/10/01発売)
特集「サピエンス減少」という未来
スペシャル企画:フジコ・ヘミング
リレーインタビュー:作家 鈴木みのりさん